君は積極的すぎて
エリオットとエリシャだけが避難所の外へ出て、再び扉を締める。そこで作戦は終了だった。
「二人ともよくやったね。後は私に任せて」
そして、私はデモンたちを撤退させ、霧の原因となった呪木を抑え込む。あとはエリオットが避難所の扉を再び開くだけ。そして、外に出た人々は奇跡を目の当たりにする。
「凄い……」
エリオットは異形生物がすっかりと消えた景色を見て、驚きを隠せないようだった。
「なぜ、ヴェルトさんは異形生物をコントロールできるのですか?」
さすがにエリオットは賢い。黙る私に、彼は一人呟いた。
「父さんは言っていました。黒い霧と異形生命体は、この星が抱えるストレスが表面化したものだ、って。星を癒すことができれば、霧も異形生命体も出現しなくなる。僕はずっとこの話を信じていたのですが、これが本当ならヴェルトさんは……」
「お父さんは、本当に凄い科学者だったんだね」
エリオットの言葉を遮りながら、私は彼の父を称える。だって、まるで私と言う存在を理解しているようではないか。これだけ文明が進んでいない惑星で、私の存在に気付くなんて、驚嘆に値する。だが、なぜかエリオットの方が驚いた顔を見せていた。
「こんな話を信じるのですか?」
「信じるも何も。その結論にたどり着くだけで、とても熱心に研究を続けたんだろうな、って思ったよ。その話を覚えているエリオットも頭が良いんだろうね」
そう言って微笑むと、エリオットは褒められて嬉しかったのか、子どもらしく頬を赤らめるのだった。
そして、次の日からエリシャは聖女として奉られ、多くの人の注目を集める。もちろん、この小さな兄妹を保護しようという権力者が現れるまで、そう時間はかからなかった。
「ヴェルトさん、お願いがあります」
エリシャが聖女として板についたある日のこと、洞窟を訪れたエリオットが、子どもとは思えないほどの真剣な面持ちで私に言った。
「どうしたの?」
何を躊躇っているのか、俯いて黙り込んでしまうエリオットだったが、意を決したように顔を上げて、私を見つめた。
「ヴェルトさん、僕と結婚してください」
「……はい?」
何を言われているのか、正直分からなかったが、エリオットは本気らしく、前のめりになって言葉を並べる。
「僕……大統領にトランドストシティへ招かれたんです。そこで、世界一の教育を受けさせてもらえるらしくて」
それが、なぜプロポーズにつながるのだろうか。
「僕は父さんの研究を継ぎたいから、この村を出て、勉強したい。だけど、ヴェルトさんと離れたくないんです!」
「……エリオット、意外に積極的なんだねぇ」
まだ彼の気持ちを飲み込めず、どこか映画でも見ているように、ただ感想を述べてしまったのだが、エリオットはそれが気に食わなかったらしい。
「僕は本気です! 一緒にこの村を出て、僕の伴侶として一生を共にしてもらえないでしょうか?」
子どもなのに、ここまで情熱的ってどうなんだろう……。
「えっとね、エリオット。私、この洞窟から出られないんだよ」
「……そうなんですか? でも、異形生物を追い払うとき、ここから出て手伝ってくれたじゃないですか」
「あれは、ソウルボディの複製体であって、本体ではないというか……」
私はどうすれば理解してもらえるだろうか、と考えたが、良い表現が見付からず、少しずつ頭が痛くなるばかりで、すぐに限界を迎えてしまった。
「まぁ……良いか。とりあえず、一緒にこの土地から出てもいいよ。ソウルボディの複製体で良ければ、だけど」
「ほ、本当ですか?」
考えるのが面倒ください。それに、惑星のコアと一緒に、ただ静かに生命体の進化を見守るよりは、エリオットやエリシャと会話できるようになった奇跡を喜ぶべきかもしれない、と思ってしまった。
「うん、いいよー」
結婚がどうとか、という話は聞かなかったことにして、私はソウルボディで彼に付き添うことに決めてしまったのだが、そこからエリオットとエリシャは、世界一の都市と言えるトランドストシティで、数々の奇跡を起こす。
唯一霧が出ない奇跡の都市として、トランドストシティには多くの人が集まり、二人は半ば信仰対象のような存在となって行くのだが……もちろん、それを良く思わない人たちもいた。
ある日、トランドストシティに用意された自室でのんびりしていると、エリシャがやってきた。
「ヴェルトさん、助けて!」
青ざめたその顔を見て、何か不吉なことが起こったのだと、すぐに理解した。エリシャは言う。
「兄さんが刺されたの! ノワル兄妹はインチキ独裁者だって主張する人たちが、暗殺を企てて……!!」




