人生変えてやろうじゃないの
「兄さーーーん!」
リリアちゃんの視線攻撃に耐えていると、またしてもこちらに駆け寄る子どもの姿が。また子どもが増えるのか……!?
「ベイル兄さん、無事でよかったーーー!」
「フレイル!」
駆け寄ってくる子どもに手を振り返すベイルくん。
……んんん?
ベイル兄さんだって??
フレイルと呼ばれた少年はベイルくんの前で立ち止まり、息を切らした。
「兄さん、またいなくなるから……心配したよ。リリアは泣き出すし、大変だったんだぜ?」
「な、泣いてないから!」
顔を赤くしながら否定するリリアちゃんを見て、からかうような笑みを浮かべるフレイルくん。
「泣いてたじゃないか。ずっと泣いていたのに、この村に到着した途端、元気に速さで走り出しちゃってさ。兄さんに会いたかったのは分かるけど、慰めていた俺としては、びっくりしたよ」
「走ってもいない! ちゃんと落ち着いて行動してましたからっ」
「あはははっ。リリアは三人でかけっこしても、絶対に一番だもんね」
ベイルくんもリラックスした様子で笑顔を見せる。ということは、フレイルくんはやっぱり……。
「ベイルくん、もしかして……」
「あ、紹介が遅れてすみません。スイさん、こっちが弟のフレイルです」
フレイルくんは今私の存在に気づいたらしく、小さく頭を下げた。弟、と言ってもベイルくんより背が高いし、顔付も大人っぽい。
なるほど、ときどきベイルくんが見せた弟に対する劣等感は、これが原因か?
確かに、フレイルくんはしっかり者の気配があるもんなぁ。
「フレイル、この人はスイさん。荒れ地で迷っていた僕を助けてくれた人だよ」
「兄さん、命の恩人じゃないか!」
フレイルくんは姿勢を正してから、深々とお辞儀をした。
「兄を助けてくださり、ありがとうございます。できる限りのお礼はしますので、何でも言ってください」
「いえいえ。私なんて大したことは……」
ああ、息苦しい。
どうしてちびっ子を相手に、何度も頭を下げねばならんのだ。
だが、私の限界がやってくる前に、状況が変わる予兆が。
「二人とも、ベイル様の無事が確認できたことですし、王都に戻りましょう。国王も将軍様も心配されています」
レックスさんが解散を促すように「さぁさぁ」と手を叩いた。それに最も早く同意したのはリリアちゃんである。
「そうですね、帰りましょう。さぁ、ベイル。私と一緒の馬車に」
「リリア、兄さんを一人占めするなよ。三人で一緒に帰ろう」
「ちょ、二人とも待って!」
ベイルくんは、リリアちゃんとフレイルくんに挟まれ、半ば強引に連れて行かれる。
「れ、レックス! スイさんのことをお願い!」
あっという間に、ベイルくんたちの姿は見えなくなってしまい、私とレックスさんだけが取り残された。
……ど、どうしよう。
超イケメンと二人っきり。うちの田舎では経験しなかったことだよ、これは。
「スイさん」
「は、はい」
うわ、イケメンが話しかけてきた。レックスさんは形のいい眉を少しだけ寄せる。
「取り敢えず、馬車までご案内します。道中、我々の事情を話させていただきますが……」
レックスさんは頭痛でも感じたように頭を抑える。
「これを聞いてしまったら、国家の存亡に関わるような大問題に貴方を巻き込むことになります。それでも、ベイル様とフォグ・スイーパとして共に歩む覚悟があるのなら、私と一緒に来てください」
レックスさんが手を差し出す。
えええ、手をつなぐってこと??
ドキドキする私に対し、レックスさんの顔は真剣だ。
「逆に、平穏な人生を送りたいのであれば、ベイル様のことは忘れ、ここを立ち去ってほしい。如何しますか?」
この手を取ったら、どんな人生が待っているのだろう。レックスさんみたいな人が、ここまで言うのだから、きっと過酷な何かが待っているに違いない。それでも、私は……。
「私は、王都に行きたいです。王都に行って、聖女として認められたい。そのためなら、頑張ります!」
私はレックスさんの手を取るが、彼はどこか憐れむように目を細めるのだった。
それから、私はトランドスト家の馬車に乗せられた。と言っても、馬車は私が乗るものだけではなく、とんでもない数が行列となっている。
ベイルくんたちも、数ある馬車のどれかに乗っているそうだが、私はレックスさんと二人。
……レックスさんと二人だけの空間。
すんごい緊張するんですけど。
「スイさんは、王都やトランドスト王家についてどれだけ知っていますか?」
「えっと……すみません、何も知りません」
「何も、ですか?」
レックスさんは驚いたのか、少し目を大きくしている。
「えっと、実は少しばかり田舎から出てきたもんで、あまり王都や王家の噂を聞くこともなくて……」
「そうだったのですか。確かに、この辺りは長閑ですね」
レックスさんは、この辺りが私の地元だと思っているらしい。この辺、私からしてみると都会なんだけどなぁ……。
「では、ここ数年で王都に流れる空気……そして、トランドスト王家とライオネス将軍家の関係を説明させていただきます」
トランドスト王家って言うのは、ベイルくんの実家ってことだよね?
ライオネス将軍家って言うのは……あれ?
確かリリアちゃんがそんな名前だったような。
「トランドスト王家はその血筋もあって、長い間、王都周辺に発生する黒霧を対処してきました。しかし、ここ数十年は王都で大規模な霧は発生せず、その役割を果たす機会はほとんどありません」
え、そうなの?
じゃあ、王都だと聖女ってあまり需要ない感じ?
「その代わり、というわけではないのですが、テロ行為が頻発し、王都では黒霧よりもこちらの方が脅威として捉えられています。そして、その対処を担当しているのがライオネス将軍家です」
「将軍家、ですか」
私の呟きにレックスさんは不安げに私を見る。どれだけ常識知らずなんだ、と思われたかもしれない。
「将軍家はドラクラとしての才はなくとも、その鍛え抜かれた体で、治安維持を務めています。ポリスでは手に負えないような、大規模な問題を鎮圧するのが彼らの役割です」
ああ、何か聞いたことあるかも。
他国の武力に迫られたときも、サムライたちが戦うんだっけ?
私は「うんうん」と頷きながら、レックスさんの説明に耳を傾ける。
「最近、民は自分たちの生活に影響しない黒霧を対処する王家よりも、身近な恐怖であるテロを止める将軍家を支持しています。そのせいで、本来は王家と将軍家の立場が逆転しているような空気が漂うようになってしまいました」
うーん。つ
まり、民は役に立たない王家より、テロから守ってくれる将軍家に親近感を持っているってことかな。レックスさんは続ける。
「その空気は民たちの中だけでなく、王家や貴族たちの間でも広がりつつある。このままでは、王家は権威を失い、国は将軍家のものに……」
バッ、とレックスさんが顔を上げ、私の両手を包み込むように、握りしめてきた。
「そこで、王家が存続のためにも、ベイル様の結婚がとても重要になってきます!」
「け、結婚??」
そう言えば私……ベイルくんにプロポーズされたような気がするけど、この辺りの事情が関係していたってこと??
「はい。そして、ベイル様の結婚は……スイさん、貴方の存在がかなり重要になってくる、と私は思っています」
待て待て!
もしかして、ベイルくんと結婚しろってこと??
玉の輿の乗るつもりでララバイ村を出てきたわけだけれど……ちょっと思っていたのとは違う、ような。
私、どうなっちゃうんだ?
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