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エリオットは不治の病にかかった妹を助けるため、奇跡の水が洞窟の中にあると聞き、一人でやってきたそうだ。


「あれは、嘘だったんですね。でも、仕方ないです。彼らも、僕が狂った科学者の息子だと聞いていたのでしょうから」


後々聞いた話によると、エリオットの父は科学者だったが、死刑に処され、この世を去っていた。それは流行り病で人々が苦しんだときのこと。エリオットの父は大量の薬を準備したのだが、そこには毒が仕込まれていて、多くの人が命を落としたそうだ。


「父さんは薬の配合を間違えたわけじゃない。誰かの罠だったんだ」


エリオットが言うには、彼の父の才能に嫉妬した誰かによる罠だったようだけど……。


「犯人は分からないままなんです。……あ、そろそろ帰らないと」


不治の病に苦しむ妹が待つ家。彼はどんな気持ちで帰るのだろうか。そう思うと、私は小さな同情心が湧いた。


「大丈夫。妹さんの病気は治るよ。治してあげる」


「ヴェルトさんが? どうやって?」


「神様は何でもできるんだよ」


彼は無表情で私を見つめた。呆れているのだろうか。いや、この状況で冗談のようなことを言う大人に、怒りを抱いたかもしれない。


「……そうですか。ありがとうございました」


しかし、彼は頭を下げて、落ち込んだ様子もなく、去って行くのだった。今の彼の心は暗いものだろうが、家に帰って数日したら驚くことになるだろう。


なぜなら、エリオットの妹の病は、私が本当に治療したからだ。ちょっとした親切のつもりだった。会話してくれたお礼。秩序を乱さないためにも、本来は生物の一個体に干渉することはないのだが、きっと彼だって本当に私が治療したとは思わないだろう。


また一人の日々に戻る。

エリトットとの出会いは、一瞬の奇跡だった。そう思い始めたとき……。


「ヴェルトさーん!」


エリオットが洞窟にやってきた。が、私は聞こえないふりをする。変に生命体と関わってしまったら、この惑星の運命を変えかねない。彼があのときの出会いは幻だったと思ってくれるよう願ったのだが……


私はエリオットのことが気になって仕方がなかった。念視によって彼の様子を見てみる。すると、彼は雨の中、妹らしき女の子と二人で座っていた。


「お兄ちゃん、ごめんね。私のせいで……」


「エリシャのせいじゃない」


「でも、私が叔父さんの遊び(・・)を嫌がらなければ、家を追い出されることもなかったのに」


「兄ちゃんの方こそ、悪かった。お前がそんな目にあっているなんて……知らなかったんだ」


なるほど。なんとなく事情は察せられた。どうやら彼らは両親がいなくなり、叔父のもとで生活していたが、妹は遊び相手(・・・・)として可愛がられていたらしい。耐えかねて反抗したところ、追い出されたのだろう。


「お兄ちゃん、お腹空いた」


「我慢しよう。朝になったら……みんなが家の前にゴミを出す。きっと、何か食べ物が入っているはずだ」


二人は数日の間、たくましく生きようとしていた。だが、この惑星の生命体はそれほど強くはない。


「……エリシャ?」


二人は次第に疲弊し、妹の方は意識も危うくなっていた。


「ごめんよ、エリシャ……。何でもいい。すぐに食べ物を取ってくるから!」


エリオットは涙を流しながら立ち上がるが、どうやら力が入らないらしい。その場に崩れてしまった。彼は何とか顔を上げ、泥を睨み付けながら呟く。


「ちくしょう……。何が天才だ。父さん、あんたも無力に死んでいったじゃないか!」


その姿に自分自身を重ねてしまう。助けるべきではないのかもしれない。だけど、彼一人を助けたところで、何が変わるというのか。


「エリオット、こっちにおいで」


私はソウルボディを使って彼に呼びかける。


「ヴェルト……さん?」


「そうだよ。もう少しだけ頑張って、エリシャと一緒に洞窟へ来るの。助けてみせるから」


彼は頷くと、重たい体を持ち上げ、妹へ歩み寄る。そして、彼女を背負うと、覚束ない足取りで進みだした。何日も降り続ける雨の中、彼は呟く。


「僕は死なない。皆に……世界中の人間に、僕を認めさせるまで!」


やっぱり、そうだ。彼は私と同じなのだ。


「大丈夫。私が助けてあげるから。もう安心してね」


励ましの声に、彼は何度も小さく頷いては、その足を踏み出すのだった。

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