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果ての惑星

実際、ドレンの言う通りだった。星はドレンの祈祷に答えてくれず、とても融合どころの話しではない。


「もっと小さい星を探そう。その方が楽だって」


ドレンは早々に融合を諦め、別の惑星に向けて宇宙船を飛ばした。瞬く間に故郷から離れて行く。その距離と比例して、私の不安は膨れ上がった。


それから、何度も融合に失敗する。五十年、百年経っても、私たちが融合できるような惑星は見つからなかったが、ドレンに焦る様子はない。それどころか、こんなことを言った。


「もう帰らないか? 惑星と融合って、もっと簡単だと思っていたけど、これなら現場仕事に戻った方がマシな気がするんだけど」


「……そんなのダメだよ」


できるだけ、穏やかな声で言ったつもりだが、自分でも驚くくらい、冷たい響きが感じられた。振り返り、何とか笑顔を見せる。


「ドレンなら、もっと良い星と融合できるから。諦めないで頑張ろう?」


そうだ。せめて大気がある星と融合しなければ。そうすれば、時間はかかるかもしれないけど、私の価値を守れる。私の選択が間違っていなかったと証明できるはず。


それなのに、ドレンは十年も辛抱できなかった。


「ふざけんなよ、もう帰らせてくれよ!」


ふざけるな?

それはこっちのセリフだ。


だって、これではあの女たちに笑われてしまう。大気どころか、融合すらできずに帰るなんて。そんな私を迎え、讃えてくれる人間が、どこにいると言うのだ。


「お前と一緒にいると、しんどい」


それなのに、ドレンは呟いた。


「こんなことなら、もっと楽な方を選べばよかった」


「……ドレン、私を誰と比べているの?」


直観でしかなかった。だけど、ドレンの表情を見て、確信した。


「な、何が? 比べてなんかないから」


違う。もっと楽な道があったのだ。私と違って、一緒にいて楽な人間が。


「言って。もう過去のことなら、怒らないから」


そこから、私たちは半年は言葉を交わさなかった。ドレンは何度かコミュニケーションを取ろうとしたが、私がすべて拒絶したのだ。しかし、限界がきたらしかった。


「分かったよ! 言うから許してくれ。お前に浮気されていたとき、一緒にいてくれた女がいたんだよ。そいつは、俺のやることを肯定してくれたし、星を出ることも考えてなかった。楽だったんだよ、それが」


「……最低」


「お、おい。正直に言えば怒らないって言ったじゃないか」


しかし、私はさらに半年、ドレンを無視し続けたが、すぐに限界がきたらしく、唐突に拳で打たれてしまった。


「あまり俺を怒らせるなよ! お前を相手に、ここまで優しくしてやれる男は、俺くらいなんだから!」


ドレンなりに我慢していたのだろう。しかし、その主張は私からしてみると滑稽なものでしかなかった。


「何言っているの? 貴方より優しい人なんてたくさんいたんだから」


「……誰のことを言っている?」


「私のことを好きだった男の話をしているだけだけど?」


ドレンは私を殴るだけ殴ると、緊急用の脱出ポットを使って宇宙船から出て行ってしまった。しばらくすれば引き返してくる。そう思ったが、ドレンはいつになっても戻ってこなかった。


しばらく一人になって、後悔に襲われる。


私にとって、最後の選択肢はドレンを何とかして大気のある惑星と融合させることだったのに、どうして我慢できなかったのだろう。ああ、結局は……私も自分より誰かを大切にできない人間なのだ。


宇宙を一人ただよう。目的もなく。帰ろう、と一度だけ思った。だけど、故郷でどうやって暮らすと言うのだ。後ろ指をさされ、笑われるだけの人生なんて、私にはとても耐えられない。


「……見つけた」


何もかも諦めかけ、宇宙の藻屑になろうと決めかけたとき、ついに私は見つけた。


「大気がある。しかも、知的生命体まで……」


大きい惑星だ。たぶん、ブルノたちが融合した惑星よりも大きい。


「でも、死にかけている」


何があったのか、コアに亀裂が入り、後千年もすれば崩壊してしまいそうだ。一人で静かに死へ向かう惑星を見て、私は強く共振する。


「私も一緒だよ……」


それは不可能なことだ。一人で惑星と融合するなんて。だけど――。


「うん、一緒にいよう。私なら、貴方となら、寄り添って生きて行ける」


惑星の声なんて、私たちに聞く力はない。それでも、私は聞いたのだ。もしかしたら、それは自分の心の声を聞いただけかもしれない。だけど、疲れ切った私の判断力は、それが最善だと感じていた。いや、それこそが私を救う唯一の選択だと思ったのだった。


「融合しよう、私と!」


強引に行う私の祈祷に、惑星はあっさり応えた。普通ならば、会えり得ないことなのに。後々考えれば、惑星はただ栄養を欲していただけなのかもしれない。


でも、そのときは惑星が私を求めてくれたのだと思った。理解し合える相手を見つけたのだ、と。

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