表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

200/239

納得できる相手は

朝から学院で祈祷の練習を行った。隣では、ブルノがいて疑似的な惑星融合を試みている。目を閉じて集中しつつも、なかなか融合のイメージを掴めずにいるようだ。


「はい、ヴェルトはそこまで。相変わらず、素晴らしい精度だわ」


「ありがとうございます、先生」


教室中がざわめく。


「グリン家の娘らしいよ」


「へぇ、美人で才能もあるのかよ」


「いいよなぁ。カレシいるのかなぁ」


そんな声は私の欲求を刺激してくれるが、満足とは言えない。私の祈祷を見て、羨ましがるような男など、将来を期待できる人間ではないのだから。


それから、祈祷の時間が続いてしまったので、私は何となくブルノの方を眺めていた。


「ヴェルト」


ブルノが薄目を開け、私の方を見る。


「集中できないから、僕の方を見ないで」


「何それー」


しかし、目のやり場がなく、私は教室内を見回すと、ルジュがこちらを見ていた。私は微笑んで会釈したつもりだったが、彼女は少し頭を下げてから顔を背けてしまう。


可哀想に。貴方が大好きなブルノは私のことが好きなんだよ。


自分でも嫌な性格だとは思うが、そんな優越感に自然と浸ってしまう。


「はい、ブルノも合格。少し雑な部分はあるけど、なかなかと評価できるでしょう」


「ありがとうございます!」


生徒の三分の一がクリアした辺りで、ブルノも合格点を出す。その後、先生のちょっとしたアドバイスを受けて、講義は終わった。ブルノと一緒に教室を出ると、知った仲間たちに声をかけられる。


「ヴェルト、お昼にしよう!」

「ブルノくんも一緒なの? みんなで食べようよ」

「二人って仲良いよねぇ」


最終的には、私たちも含め同期が七人集まり、学食で食事を取った。ブルノがお手洗いに席を外すと、仲間の一人が言った。


「ねぇ、ヴェルト。ちゃんとカレシのこと、ブルノくんに言ったの?」


余計なことを。そう思いながらも、回答は決まっている。


「別に、私とブルノはそういう関係じゃないよー」


「でも、ブルノくんは絶対にヴェルトが好きじゃない。告白されたら、どうするの?」


ただ笑顔を浮かべ、誤魔化していると別の仲間が言った。


「私もカレシにするならブルノくんみたいな人が良いなぁ」


「なんで?」


聞き流せばよかったのに、つい気になってしまった。


「だって、真面目で良い子じゃない。誠実に愛してくれそうだし、長く幸せでいたいなら、絶対にブルノくんみたいなタイプよ」


「じゃあ、付き合ってみたら?」


嫌味というわけではないが、どこまで本気なのか試すつもりで言ってみると、彼女は何とも煮え切らないような顔を見せるのだった。


「それはまた違うでしょ。それに、ブルノくんはヴェルトのものなんだから。入り込む余地なんてないよ」


「そうそう。本当に忠犬って感じよね、ブルノくんは」


笑いに包まれ、別の話題に移ったのだが、そういうことではないか、と私は心の中で呟く。ブルノを手に入れたところで、本気で羨む人間なんていない。きっと、私とブルノが結ばれたとしても彼女らはこう言うんだろう。


――ふーん、結局は落ち着くところに落ち着いたって感じだね。


それは祝福でも何でもない。むしろ、嘲りに近いものだ。きっと、誰もが私がそういう道を選ぶことを望んでいる。名門の娘と言ってもその程度。手に入れる幸福は平凡で、自分たちと大して変わらないのだ、と。しかし、ブルノが戻ると誰もが何事もなかったように会話していた。なんだかブルノが可哀想だった。


すべての講義を終えると、いつものようにブルノが声をかけてきて、二人でステーションまで歩いた。


「この前のことなんだけど……」


ブルノが躊躇いがちに、私が涙した日のことを話題に出してきた。


「その後、大丈夫? 解決できていないなら、話しだけでも聞くけど」


「大丈夫だよ」


私は笑顔で答えるが、暗く重たい感情がお腹の中に渦巻いていた。彼は、私の悩み事を通じて、もっと深い関係を築こうとしている。私が求めているのは、そういうことじゃないのに。そんな姑息な手を使わず、私を恋に落としてほしかった。致命的な恋に。そうすれば、ドレンのことなんて簡単に別れられるのに。


『仕事終わったけど、マジで体調悪い。死ぬかも』


ブルノと別れると、ドレンからメッセージが入っていたことに気付き、激しい怒りを抱く。私のパートナは、ブルノよりも情けない男だ。それなのに、なぜ私は食材を買い込んで、ドレンの家に向かっている。


自分が分からない。自分が何を期待しているのか。


何を求めているのか。本当に分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ