田舎聖女の夢は
妙な少年に突然プロポーズされた私だけれど、少しばかり、私が故郷のララバイ村を出た経緯を話しておこう。
時間は遡り、三日前。
それは星が美しい夜のことだった。
「私は絶対に、こんな田舎から抜け出してやる!」
「でもさぁ……スイ、田舎を出てどうするの?」
幼馴染のジョイはあくびをしながら聞いてきた。この会話、何度繰り返しただろう。
ここは村で一番高い場所。村役場の屋上である。
私は退屈過ぎて眠れない夜、いつもジョイを呼び出して、自分の野望を聞かせていたのだ。
「だから、聖女として有名になるの。大聖女って呼ばれるくらい、ガンガン働いて、そしたら貴族か王族に見つけてもらえるでしょ? そのあとは結婚。悠々自適な生活を送るってわけ」
「悠々自適な生活ってなに?」
「それは……朝は遅く起きて、昼は紅茶を飲み、夜はお腹いっぱい食べて、温かい布団で眠る。そんな生活よ」
「じゃあ、スイはもう夢を叶えているじゃん。今日も、十二時前に起きて、紅茶飲んだから舌をヤケドした、って騒いでたよね?」
た、たしかに。
でも、なんだろう。何かが違う。
あ、そうだ。
「あと、隣には素敵な旦那様がいる、ってのが条件ね。それがあるとないとでは、大きな違いがあるの」
「村の男たちの中から探せばいいじゃないか」
「こんなクソ田舎に、素敵な旦那様になれるような男がいるわけないでしょ! 芋野郎ばっかりなんだから!」
「……芋野郎ねぇ」
ジョイは再び退屈そうに溜め息を吐く。
ああ、本当に何度このやり取りを繰り返しただろうか。私の話を聞いても「そんなに田舎の暮らしが嫌なら早く村を出ろ」と思う人がほとんどだろう。
しかし、ここは本当に田舎なのだ。
陸の孤島と言ってもいい。ここを抜け出して、王都に向かうなんて……大人の協力なしでは不可能なくらい、隔離された世界なのだ。
一人で村を出るとしたら、一か八か。運良く隣町にたどり着くか、荒野で野垂れ死ぬかのどっちかだ。
つまりは勇気が必須。
私には賭けに出る勇気と覚悟がないのだ。
「でも、この村も嫌いじゃないしね……」
村を出る過酷さを想像し、思わず本音を漏らす。空を仰ぐと満天の星空。これを毎日見られて、ゆったりとした時間が過ぎて行くだけでも、実際悪くはないのだ。
「ううん。でも、そうじゃないの」
と私は自分の思考を否定する。
「私は皆に認められたい。大聖女様、って言われたいの! これは承認欲求ではない。上昇志向よ」
「そういうけどさ、スイ……」
ジョイは溜め息を吐く。
そして、私にとって最大の欠点を指摘するのだった。
「スイは聖女なのにドラクラの力を引き出せないじゃん。それじゃあ、フォグ・スイーパはできないし、だとしたら大聖女なんて呼ばれるのは、夢のまた夢だよ」
「……それを言うなよぉぉぉ」
「あ、ごめん」
ドラクラとは、この世界最大の災害である、黒霧を排除する戦士。その力は聖女の血によって引き出されるのだが……私の血には、その力がないのだ。
思わず涙をこぼす私を、ジョイは慰める。こうして、私たちは何度も目か分からない、変わり映えのない夜明けを迎えるのだった。
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