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いつか居場所に

無事に呪木を除去すると、青い空が僕たちの頭上に広がった。


「よかったぁ……」


僕はその場にへたり込む。勢いで戦ったけれど、初めてのことで上手くできるのか、本当に緊張していただけに、心底安心したのである。


でも、本当に良かった。

この調子なら、村が霧に飲まれることもないだろうし、皆も安心してくれるはず。この達成感を一番共感したいのはもちろん……。


「……ナナオさん?」


彼女の方を見ると、なぜか僕を見ながら、無表情のまま固まっている。


「どうしたんですか?」


これだけのことをやってのけたのに、嬉しくないのだろうか。

達成感とか、そういうのもないのかな?

もしかして、僕が無理やり噛みついて血を吸ったこと……怒っている?


「あの」


「は、はい」


なんだろうか。

じっと僕を見つめ、なかなか喋ってくれない。


「本当ですか?」


「へっ?」


やっと喋ってくれたと思ったら……なんのことだ??


「ですから、さっきの……私をパートナにしてくれるって話しは、本当でしょうか?」


「あ、ああ……」


何かと思えば、と呆気に取られる僕だったが、彼女は目を細め、俯いてしまった。


「あの状況は、そう言うしかなかったですものね。その……勢いで言ってしまっただけなら、聞かなかったことにします。できます。ええ、私は大丈夫ですから」


そんなことを言いながら、踵を返す彼女を見て、僕は思わず吹き出してしまった。


「なぜ、笑うんですか??」


さすがに怒ったのか、彼女が勢いよく振り返る。


「えっと、ごめんなさい。……ナナオさんって、本当に気持ちを口にするのが苦手なんですね」


「……はい。苦手です」


さっき、無表情で僕を見つめていたのは、そのことを聞きたくて仕方なかったのに、なかなか言えなかった、ということらしい。僕より四つも年上なのに、不器用な彼女がいじらしてたまらなかった。


僕は踏ん張りが効かなくなった足に、何とか力を込めて立ち上がる。ふらついたが、彼女がさっと手を出して支えてくれた。


「もちろん、本気です」


僕の視線を受け止める彼女の瞳は、まだ信じ切れてはいないようだった。


「僕とパートナになってください。お願いします」


「でも……」


彼女は目を逸らす。


「私みたいな不気味でつまらない女、きっとすぐに嫌になります」


「……確かに、ナナオさんは分かりにくいところがあるけど」


そう言うと、彼女は無表情を僕に向けたので、また笑いそうになってしまった。


「けど、僕はもっと貴方のことを知りたいと思っています。それに、もっと知れば……もっと一緒にいたいと思う気がするから」


「そんなの……いつ気持ちが変わってしまうのか、分からないじゃないですか」


僕だって、同じことを思っていた。きっと、僕はスイのことだけを想って生き続けるとばかり思っていたのに、今こうして別の道を選ぼうとしている。そんなの、過去の僕は納得できるのだろうか。不義理ではないか。


でも、誰に?

今の僕の気持ちを裏切ってまで、生き方を変えない理由はあるだろうか。


「信じてもらいえないかもしれません。だけど、信じてもらえるよう、頑張ります。だから」


僕は彼女の前で、忠誠を誓う騎士のように片膝を付いた。


「だから、お願いします。僕のパートナになってください」


「……」


ゆっくりと、手を伸ばそうとするナナオさんだったが、後少しで触れる瞬間、ピタリと止まってしまう。思い止まってしまっただろうか。ショックを受けたのもつかの間……彼女は「あっ」と小さく声を漏らしたかと思うと、踵を返して走り出した。


「な、ナナオさん!?」


聞こえていないのか、真っ直ぐと走り出す。村に戻り、僕の家の前を、ムラクモ家の前を過ぎ、ただひたすら走った。あれだけ細い体で、どれだけ体力があるんだ、と驚きを覚えた頃、やっと彼女の足が止まる。


「よかった。みんな無事だった……」


彼女が必死になって走った先は、うちのヤギ小屋だった。


「霧が近いと思って、心配していたんです。毒にやられていたら、どうしようって」


ヤギたちも、柵の前まで来て彼女に向かって鳴き続ける。まるで、お互いの無事を喜んでいるかのようだ。ヤギたちの頭を撫でる彼女の後ろで、さっきの話しはどうなっただろう、と立ち尽くていると……。


「あ、ジョイさん」


振り返り、彼女は言った。


「こんな私でよければ……よろしくお願いします」


「あ、はい。お願いします」


微笑む彼女。僕も自然と微笑みが浮かんだ。


きっと、彼女にしてみれば、新しい生活の場を手にした、という程度の喜びしかないだろう。僕に対して、特別な想いなんてないかもしれない。


だけど、だからこそ、僕は彼女の居場所になってみせる。


いつか僕と一緒にいる時間こそ、本当の居場所だと彼女に思ってもらうその日まで。その後も、ずっと……。

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