田舎娘、エリートなイケメンに出会う
「ベイル様の友人とは知らず、失礼しました」
あれから三十分後。例の美丈夫は、私の前で深々と頭を下げた。犯罪者扱いされた私だったが、ベイルくんはもちろん、チイチイ村の皆が無罪を主張してくれたおかげで、取り敢えずは事なきを終えたのである。
「い、いえ。別に、その……ぜんぜん平気です」
ここはチイチイ村の役場前。お互いの事情を理解し合うために、一度場所を変えて話し合ったのだけれど、美丈夫は何だか酷く反省したらしく、肩を落としていた。
「しかし、感情のまま動き、女性を怯えさせてしまうとは……騎士としてあるまじき行為です」
「そ、そんなことは……。私こそ、ベイルくんを勝手に連れ回して、すみません」
私も頭を下げると、隣のベイルくんが何だか不満げな顔でこちらを見ていた。
「な、なに?」
「別に……。スイさんらしくない、と思っただけです」
私らしくない?
どこが?
それをベイルくんに聞こうと思ったが、美丈夫が一歩前に出てきた。
「スイさん、と言うのですね」
距離が近くなり、私がたじろいでいると、ベイルくんが妙に目を細めるのだった。それに気付いた様子もなく、美丈夫が名乗る。
「私はレックス。ベイル様の騎士です」
「嗚呼、騎士様なのですね。しかも、王家専属なんて……ご立派です!」
超エリートじゃん!
しかも、こんなにカッコイイなんて、めちゃくちゃモテるんだろうな!
「いえ、まだまだ未熟者です。実際、こうしてスイさんのような可憐な女性を怯えさせてしまったのですから……」
か、可憐だって!
ララバイ村のみんな!
超イケメンが私のこと、可憐って言ってるよーーー!!
「それで、スイさんはどうして……」
おうおう、レックスさんよう!
私に興味津々じゃないか。
何を聞くんだ? 何を聞くんだい??
「レックス!」
しかし、間に入ってくるベイルくん。
「スイさんのことは、僕が後で説明するから。それより、どうしてこんなところにいるの?」
「それは、ベイル様が私に嘘を吐いて城を抜け出したからに決まっています。リリア様がすぐに教えてくださったから、すぐに捜索に出れたのですよ?」
「リリアのやつ、すぐチクるんだから……」
「リリア様のせいにするのですか? ベイル様のせいでリリア様は各方面に頭を下げていたのですからね? 会ったらすぐに謝罪すべきだと思いますが」
「ぐ、ぐぅ……」
レックスさんの剣幕に身を縮めるベイルくん。これじゃあ、自分から怒られに行ってるみたいだな。
「ちなみに」
レックスさんは続ける。
「リリア様とフレイル様に、ベイル様発見の旨をお伝えしてあります。間もなく、到着するでしょう」
「ま、間もなくって……ここに? フレイルだけじゃなくて、リリアもくるの??」
珍しく激しい動揺を見せるベイルくん。何を恐れているのか、その理由はレックスさんも分からないらしく、眉を潜めている。
「フレイル様が来られるのですから当然でしょう。何か不都合でも?」
「そ、そういうわけでは……」
そして、ベイルくんはなぜか私の方に視線を向ける。
「どったの?」
「な、なんでもありません」
……?
変なベイルくん。
「フレイル様とリリア様と合流したら、すぐに王都へ帰りましょう。なぜ、このような事態に陥ったのか、問いたださなければならない者たちもいます。もちろん、スイさんはご自宅までお送りします。スイさん、お住いの街はどちらですか?」
「えっと、ですね……」
ま、街じゃねぇんだよなぁ……。
ああ、レックスさんに田舎者だって思われたくないなぁ。
でも、嘘を吐くのも何かなぁ……。
適切な回答を模索し、頭がショートしつつある私に、ベイルくんが助け舟をよこしてくれる。
「スイさんは、僕と一緒に王都まで帰る。馬車も同じものにして」
ベイルくんはやや早口で、その振る舞いは少し王子様らしいと思わせるものだったが、レックスさんは怪訝そうな表情を浮かべた。
「ベイル様、いくらご友人とは言え、王族の馬車に乗せるのはよろしくありません。ちゃんとした馬車を用意するので、そこは私を信じてください。で、王都までご一緒、ということは、スイさんも王都にお住いなのですか?」
レックスさんの視線が再びこちらに。
またこの質問かぁ。
ちくしょう、どうすれば田舎者だと思われずに済むんだ??
「そ、それはですね」
再びあからさまに慎重な態度を取る私だったが、ベイルくんも再びわがまま王子様の態度を見せる。
「レックス! 女性にあれこれと詮索するのはマナー違反だといつも言ってたよね? なのに、どうしてスイさんにいっぱい質問するの?」
「そ、そういうつもりでは……。スイさん、失礼しました」
少しだけたじろぐレックスさんだが、すぐに凛々しさを取り戻し、逆に質問を返す。
「では、ベイル様にお答えいただきましょう。スイさんはどちらにお送りすべきなのですか? 彼女の素性は? 家か柄は? どこでお知り合いに? どういう関係で? 今後の付き合いはどのように?」
次々と繰り出されるレックスさんの質問に、ベイルくんは少しずつ頬を膨らませて行った。
「レックス! 質問は一つずつにして!」
「……分かりました。では、一つにします」
「う、うん」
ベイルくんを見下ろすレックスさんの視線は、とんでもない緊張感があった。それを受け止めるベイルくんは、どう見ても怯えている。まるでウサギさんだ。
「ベイル様とスイさんは、どういうご関係なのか、お聞かせください」
ベイルくんは何かを迎え撃つかのように、両拳を握りしめ、ファイティングポーズに近い姿勢を見せた。そんなベイルくんを冷淡な目で見下ろすレックスさん。
……どういう状況?
ベイルくんのやつ、何を躊躇っているのだろう。
よく分からないけれど、数秒の沈黙の後、ついにベイルくんは打ち明けるのだった。
「スイさんは……。実は、僕と同調できる聖女様なんだ!」
意を決したような勢いのベイルくん。しかし、レックスさんは無表情でそれを受け止めると、小さく溜め息を吐くだけだった。
「ベイル様。お気持ちは分かりますが、現実逃避されても困ります。それに、リリア様の立場もあるのですから、気軽にそんなことを口にしてはなりません」
少しだけ同情が含まれたようなレックスさんの態度だが、ベイルくんは首を横に振る。
「違うんだよ、レックス。僕はドラクラになったんだ。スイさんの血で、ドラクラに変身できたんだよ」
「……本当ですか?」
頷くベイルくん。
「ウソじゃなく?」
頷くベイルくん。
「……ま、まさか!!」
衝撃を受けるレックスさん。
あ、そうか。そういうことか。
ベイルくんをよく知っている人たちからすると、彼がドラクラに変身できた、ということは、驚きの出来事なのか。
それもそうだよね。
最強のドラクラを世に出す王家の長男が、まったく変身できなかったのに、急にできちゃったんだから。
もしかしたら、国を挙げてお祝いするような、凄いことなんじゃないの?
「だとしたら……」
レックスさんは呟く。
続く言葉は、きっと祝福に溢れたものだろう、と思ったが……。
「だとしたら……とんでもなく、厄介なことになってしまったのでは?」
な、なんで?
何やらか虚ろな目で肩を落とすレックスさん。
え、がっかりしているの?
どういうこと?
ちょっとベイルくん、なんか言ってやってよ! と彼の次の発言に期待すると……。
「そ、そうなんだよ、レックス! だから、お願いだよ! 協力して! 僕はドラクラになりたいんだ。スイさんが僕の聖女様になれるよう、レックスも協力してよぉぉぉーーー!」
半泣きで懇願するベイルくんと、彼に服の裾を引っ張られるも固まったままのレックスさん。
……星の巫女様、この私が何をしたと言うのでしょうか?
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