つまらない女
あまりに風が強いせいか、何度が照明が消えかかった。そのたびに照明を確認したが、彼女は淡々と食事を皿に移すだけで、少しも気にした様子はない。そして、お互いに黙って食事を口に運び出すのだが……僕は耐えられず、つい沈黙を破ってしまった。
「あの、スイの部屋で……何をしていたのですか?」
「スイ?」
しまった、と口元を抑えそうになるが、別に悪いことなんて何もない、と思い直す。
「えっと、二階の部屋です。灯りが付いていたから」
「……ああ。何となく、あの部屋が一番居心地がよかったので」
「それだけ?」
「はい。……変ですか?」
「いえ! 変ではない、と思います」
「よかったです」
怒らせてはいないだろうか。不安になるが、彼女の顔色が少しも変わらないので、判断できない。
「美味しい」
しかし、彼女が急にそんな感想を口にした。
「本当ですか? よかったです」
「……お母さんが作るご飯って、美味しいものなんですね」
彼女の呟きは、自らの過去を匂わせるようだったが、勇気がなくて何も聞けなかった。
「あの……」
「なんでしょう!?」
またも沈黙が流れた中で、彼女の方から話題を提供してきたものだから、僕は少し大きい声で反応してしまった。驚かせただろうか。彼女も僕を見つめ、固まっているみたいだった。
「す、すみません。なんでしょうか?」
「……聞きにくいことなのですが、私はもらってもらえるのでしょうか?」
「……」
つまりは、フォグ・スイーパとして組めるのか。この村に置いてもらえるのか。ジョーンズ家に置いてもらえるのか。それを聞いているのだ。
「正直、僕は分からないんです」
僕は視線を落としながら、思ったままのことを口にする。
「これまで、僕は誰かと組んだことがないので、それがどういう意味なのか、実感がないと言うか。大きな責任を負う気がして、自分にそんな器があるのか、自信がないところもあります。それに……」
僕は躊躇う。なぜなら、一番正直なところを話そうとしていたからだ。
「それに、僕はそういう不安を振り切って、ナナオさんと一緒にいたいと思えるほど……まだ、貴方のことを知らないので」
それを伝えても、彼女から何の反応もなかった。さすがに怒らせたかもしれない。恐る恐る視線を上げるが……やはりと言うべきか、彼女の表情は何も変わらない。
「そうですか」
むしろ、そんな短い言葉が返ってくるだけだった。
「すみません。こんな田舎まで来てもらったのに」
「ジョイさんが謝ることではないと思います。それに、慣れているので」
「……慣れている?」
彼女は小さく頷いた。
「私はつまらない女ですから。誰かにもらってもらえるなんて、簡単なことではない、と分かっているつもりです」
「つまらない女って……」
そんなことはない、と否定するのもおかしい気がして、僕は黙ってしまった。
「つまらない女なんです。口数も少ないし、表情もない。不気味がられて、王都では新しいパートナを見つけられませんでした。自分から声をかけられないし、斡旋してもらっても長く続かなくて……。たぶん、私がつまらない女だから、そうなったのです」
そう語る彼女の黒い瞳に、感情が浮かび上がった。
「でも、自分でもどうすれば良いか分からない。このまま、行き場がないとしたら……」
彼女はそこまで言って、箸で摘まんだままの煮魚に気付いたのか、ゆっくりと口の中へ運ぶ。
「……分かりますよ」
僕は独り言のように共感を口にした。
「僕も自分の気持ちを伝えるのが苦手で、自分の良いところがあるのか、それもよく分かってません。もっと本音を言えばよかった。気持ちを伝えればよかった。そんな風に後悔してばかりです」
何を語っているのだ。
恥ずかしくなって、彼女の方を見ると、そこには微笑みが。確かに、彼女が微笑んでいた。
「でも」
そして、彼女は言った。
「でも、ジョイさんは真面目で良い人だと思います。ジョイさんみたいに、ちゃんと断ってくれないまま、都合よく利用する人だっているんですから」
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