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あのときの気持ちと彼女の今

次の日の夜、僕は母さんと喧嘩して、また家を出た。そして、役場の上に……と思ったが、ふとヴェルトのいる洞窟へ向かってみようと思うのだった。


「あ、ジョイ。今日も来てくれたの?」


「うん。起きててよかった」


昨日、ヴェルトは僕を追い出すくらい怒っていたのに、笑顔で迎え入れてくれた。僕はヴェルトが浮く水溜まりの手前に、腰を下ろす。


「昨日は一度にたくさん聞いちゃってごめんね。ヴェルトのこと、色々知りたくてさ」


素直に謝ると、ヴェルトも照れ臭そうに小さく頭を下げた。


「こっちこそ、ごめん。私、あまり頭が良くないから、一度に色々言われるとパニックになっちゃうんだ」


「……誰だってそうだよ。だから、僕が悪かった」


僕の態度が意外だったのか、ヴェルトはしばらく目を丸くしたが、くすぐったそうな笑顔を浮かべた。


「やっぱり、ジョイは優しいね。スイちゃんが好きだったのも、よく分かるなぁ」


「えっ……?」


聞き違いだろうか。スイが僕を好きだった。ヴェルトがそう言ったように気がするけど。


「それも、スイの心にアクセスして感じたこと?」


変に意識したくなかったので、スイの気持ちについては詳しく聞かないことにした。ただ、ヴェルトは僕の質問に、怪訝そうに眉をひそめる。


「信じてくれるの?」


「まだ分からない。だけど、僕はヴェルトのことを信じたいって思っているよ」


「……悪くない答えかも。じゃあさ、どうすれば私が星の巫女だって信じてくれる?」


「うーん……。あ、そうだ。村を出た後のスイについて教えてよ。スイは楽しくやっているのかな? 田舎者だって馬鹿にされてなければいいけど」


どういう気持ちなのか、ヴェルトは寂し気に目を細めた。


「彼女も色々あったんだ。彼女が王都についてからの話、聞いてくれる?」


「……うん。でも、スイは勝手に自分の話されて、嫌じゃないかな?」


ヴェルトは首を横に振る。


「たぶん、スイちゃんもジョイに聞いてほしいと思っているよ。何なら、本人に確認してみようか?」


「そんなことできるの??」


「うん。今なら、それくらいの情報なら、やり取りできるはず」


ちょっと迷ったけど、スイに僕が話を聞きたがっていると知られるのも何だか恥ずかしかったので、それは断ることにした。そして、ヴェルトからスイの話を聞いたのだけれど……。


「そうか。スイはそんなに大変だったんだ……」


「本当の話しだって思ってくれたの?」


僕は頷く。


「ヴェルトが話すスイは、僕の知っているスイそのままだった。スイが何に喜んで、何に悲しんで、どんなときに立ち上がるのか……僕と一緒にいた頃と、少しも変わってなかったから」


「やっぱり、ジョイはスイちゃんのこと分かっているんだね」


「……どうだろうね」


そこは素直に答えられなかった。だって、もし僕が一番にスイを理解していたら、彼女だって村を出て行かなかったはず。そんな考えが、ずっと心の中にあるのだ。



次の日も、その次の日も、僕は夜になるとヴェルトの洞窟を訪れ、スイの話を聞いた。そうすると、さすがのヴェルトも思うことがあったのか、こんなことを質問されてしまうのだった。


「ジョイは、やっぱりスイちゃんに帰ってきて欲しい?」


「……どうだろう。星の巫女でも、そこまでは分からないの?」


からかうと、彼女は頬を膨らませる。


「そこまで万能じゃないから! 聖女って呼ばれる子たちの心にはアクセスできるけど、変身前のドラクラは無理だよ」


「そうなんだ。変身したら、ヴェルトに心を読まれると思うと、ドラクラになりたくないなぁ」


「なんでよ! 私は星の巫女なんだから、恥ずかしいって思う方が変なんだからね」


「そうは言ってもなぁ」


僕たちは、何がおかしいのか、友達同士みたいに笑い合った。笑いが収まると、スイと一緒にいた日々をつい思い出してしまう。


「もちろん、スイに帰ってきて欲しいとは思うよ」


こぼれ出す本音に、ヴェルトは黙って耳を傾けてくれた。


「だけど、無理だって分かっている。僕が好きだったスイは、今さら帰ってくるようなやつじゃないから」


「寂しい?」


「うん。この田舎で、何もない日々を続けていると、誰かが助けてくれないかな、って思うときもある。だけど……誰でもいいってわけじゃない。結局、スイが帰ってきてくれたら、って気持ちに戻ってきちゃうんだ」


「分かるかもしれないなぁ」


共感してくれるヴェルトに、僕は次々と本音をこぼしてしまう。


「そうだ、聞いてよ。うちの母さんが勝手に都会から聖女を呼び出してさ。お見合いしろって言うんだよ。相手がどんな人も分からないのに、どんどん話を進めちゃってさ――」


一気にここ最近の愚痴を放出すると、ヴェルトは笑い飛ばしてくれた。


「本当に、お見合いなんて憂鬱だよ。僕はそんなつもりないのに」


「でも……」


今まで何でも笑い飛ばしてくれたヴェルとが、少し寂しそうに目を細めた。


「誰かが一緒にいてくれるってだけで、幸せなことなんだよ?」


「……」


僕が黙り込むと、ヴェルトはそろそろ帰った方が良いと言った。


「それにしても、もうこの惑星の人類と喋ることはないって思っていたのに……やっぱり、誰かと話すって楽しいね」


「長い間、人と喋ってなかったの?」


「うん。喋れる人間がいなかったから。あ、ジョイったらヤギ小屋と畑の途中に出てきた水を飲んだでしょ?」


「え? ああ、うん。それが何なの?」


「……うーん。何でもないよ」


ヴェルトが溜め息を吐く。どこか面倒な仕事を思い出したかのように。


そして、なぜか次の日から、例の湧水は止まっていた。

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