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彼女はずっと見ていた

ヤギの面倒を終え、次は畑へ。母さんに色々言われるのは嫌だったが、一人で畑仕事をさせるわけにはいかなかったので、すべてを聞き流しながら、最後までやり切った。


「ジョイ、なにやっとんの? 先に帰るよ!」


「うん……」


母さんが立ち去った後、僕は森の方へ向かった。昨日の夜、洞窟の奥にいた女の子のことが気になっていたのだ。


「ああ、ジョイ。きてくれたんだ」


洞窟の中の女の子は、昨日と変わらず、ぼんやりとした緑色の光に包まれながら、湖の上に浮かんでいる。


「君……誰なの? なんで僕の名前を知っているの?」


「なんでって……」


女の子はふわふわと浮かびながら、首を傾げる。


「なんでだっけ?」


「…………えっと、君の名前は?」


僕はひとつひとつ解決していこう、と考えた。簡単な質問に、彼女ははっきりと答える。


「ヴェルト」


「いつからここにいるの?」


「ちょっと前からかな」


何が楽しいのか。本当に明るい笑顔に、僕はやりづらさを感じつつ、質問を続けた。


「ちょっとって、この前の地震のときから?」


「そんなの、昨日の話みたいなものじゃない」


そういって、洞窟の中の女の子……ヴェルトは笑った。


「じゃあ、いつ頃からなの?」


「うーん……分からない。ジョイが生まれた頃? いや、違うなぁ。もう少し後だったかも」


どう見ても年齢は僕と同じくらいなのに、そんなわけないじゃないか。それに、そんなに昔の話をちょっと前って……。どう考えてもおかしいじゃないか、と呆れながらも、このマイペースな感じまで、スイにそっくりだ、と改めて思わされた。


「もしかして……」


そんなわけがない、と思いながらも、スイと同じ黄金の瞳を見ると、質問せずにはいられなかった。


「君はスイの知り合いなの?」


すると、彼女は旧友の名前を耳したような笑顔を見せる。


「うん。彼女のことはずっと前から大好き」


「ずっと前から……?」


彼女の言う「ずっと前」がどれくらい昔のことを指しているかは分からないが、勢いを見る限りだと、ここ一年や二年のことではないはず。だとしたら、僕がヴェルトのことを知らないなんて、おかしいではないか。


「でも、僕は君のことを知らないよ?」


「それは仕方ないよ。ジョイとはお話しできなかったんだし。そもそも、スイちゃんと話せるようになったのも、最近のことなんだから」


それは友達とは言わないのでは?

しかし、彼女には僕の声が聞こえたかのようだった。


「だけどね、ずっと見守っていたんだ。スイちゃんがこの村にやってきて、君と出会って、少しずつ変わって……」


ヴェルトの話を聞いて、スイと初めてあったときのことを思い出す。人見知りで、表情もほとんど変化がない、不思議な女の子だったのに。今では……。


「ふふっ、今ではあんなに明るい子なんだから、不思議だよね」


まるで、ヴェルトは僕と記憶を共有しているみたいに笑うのだった。


「……つまり、僕のことはスイから聞いたのかな?」


ヴェルトは首を横に振る。


「そうじゃないの。ずっと、見てきた」


彼女の黄金の瞳が光り輝く。


「スイちゃんを通して、この村のこと、君のこと、王都で起きた悲しい出来事も、ずっと見てきたんだよ」


「……スイを通して?」


ヴェルトは頷く。


「そう、私はこの世界にいる聖女と呼ばれる少女たちの心にアクセスできるの。いつでも、どんなときでも」


心にアクセス?

そんなの信じられるわけがないじゃないか。


「本当だよ、信じられないかもしれないけど」


僕が否定する前に、彼女は言うのだった。


「だって、私はこの星のコアなんだから」


コアというワードを飲み込めずにいる僕のために、彼女は「えーっと」と言葉を選んだ。


「つまりは神様? あ、今ってあまり神様って言わないか」


適切な言葉を選びなおそうとする彼女だったが、ひらめきを覚えたかのように明るい表情を見せると、指を一本立てた。


「貴方たちが星の巫女と呼ぶ存在。それが私なの」

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