お願いだから縛らないで……
夜、村人たちが開催した宴会で、私はたらふく食べた。故郷を出てから、まともに食べてなかったので、涙を流しながら食べた。さらに、広々としたお風呂に入って、ふかふかのベッドまで用意されていたのだから、本当に最高の夜となった!
「ベイルくん、何しているの?」
私はお風呂から上がって、村長が用意してくれた部屋に戻ってみると、ベイルくんは窓から外を眺めていた。彼だって今日は疲れているはず。先に寝てると思ったのだけど。
「星を見ているの?」
私は隣に並び、一緒に外を眺めてみた。星々は輝いているけれど、毎晩のようにジョイと一緒に見ていた夜空に比べると、少しばかり迫力に欠ける。でも、ベイルくんは目を輝かせていた。
「興奮して眠れないんです」
「興奮?」
「はい。僕、ドラクラにはなれないんだって、少し諦めていたんです。トランドスト家の王子なのに、ドラクラ化できない、出来損ないの子供だって……」
そうか。そう言われてみれば、私も同じだ。出来損ないの聖女だと思っていたけど、ついに力を発揮したのだから、なかなか興奮は冷めない。ただ、ベイルくんは王子。私とは背負っている重みが違うのかも。だけど、彼は満点の笑顔を見せるのだった。
「でも、スイさんのおかげでドラクラ化に成功しました。本当にありがとうございます!」
「私もベイルくんに会えてよかったよ。こっちこそ、ありがとうね」
ベイルくんは少しだけ顔を赤くして、口をもごもごさせる。
照れているのかな?
可愛いじゃないか。
「あの、それで……ですね」
「ん?」
「改めて確認と言うか、お願いしたいことが……」
言いかけて口ごもるベイルくんだが、勇気を出したように顔を上げると、真っ直ぐ私を見た。
「スイさんは、王都で活躍することを目指して、故郷を飛び出したんですよね?」
「うん、そうだよ」
あ、そうだった。
ベイルくんの前では本音を暴露していたのだ。
大聖女として活躍して、王族か貴族に見初められたら、その後は悠々自適なスローライフを送る。そんな志の低い夢を持つ私のことを、彼は打算的で欲望にまみれた女、と思っているのだろうか。
そんなうしろめたさを覚える私だったが、ベイルくんは両目を閉じ、切実な様子で懇願してきた。
「だとしたら、お願いがあります。僕の聖女様として、一緒に王都へ来てもらえないでしょうか!?」
「……今さら何言ってんの?」
「……え?」
ぽかん、と口を開け、可愛い大きな瞳に疑問符を浮かべるベイルくん。
私は言う。
「既に私たちは最強のフォグ・スイーパじゃない。行きましょう! 王都に凱旋して、見せつけてやろうじゃないの! 私とベイルくんがどれだけ優秀なコンビか、ってことを!!」
「ほ、本当ですか……?」
「当然! って言うか、ベイルくんこそ私で大丈夫なの? 私って田舎者だし、色々と知識もないし……。有り体に言って、ポンコツだよ?」
ベイルくんは全力で首を横に振って否定してくれる。
「そんなことありません! スイさんは素敵な聖女様です! たぶん、黒霧の根源を断ち、世界に光をもたらす、予言の聖女とはスイさんのことですよ!」
「そ、そう? そうかなぁ……? ふへへっ」
今まで褒められたことがなかったので、思わずニヤけてしまう。が、ベイルくんは何やら補足情報を呟いている。
「……ただ、怒る人はいるかもしれません。でも、スイさんなら大丈夫。うん、大丈夫だと思います」
「なんだって?」
「あ、いえ。何でもありません。その、うちの親戚は少し厳しい人とか、変わった人もいるので、そこだけは我慢してもらえると嬉しいな、って」
「そういうことね! こっちも田舎の頑固者どもを相手にしてきたんですから、任せなさいって!」
「よ、よかったぁ」
嬉しそうなベイルくん。
私みたいなものには想像できないけど、格式の高い家柄の中、肩身の狭い思いをさせられてきたんだろうなぁ。
ベイルくんの苦労を想像していると、何だか眠気がやってきて、あくびが出てしまった。
「そろそろ寝ようか」
「はい。あ、でも……」
「何?」
「ぼ、僕はこのソファで寝ます。スイさんはベッドを使ってください」
ん?
ああ、ベッドが一つしかないのか。
「どうして? これだけ大きいベッドなんだから、余裕で二人で寝れると思うよ?」
「そ、そういうことではありません」
「どういうこと?」
なぜか顔を赤らめるベイルくん。
「僕、男子ですよ!」
ベイルくんの主張に、私は思わず吹き出す。
「ちびっ子が何言っているの! 馬鹿なこと言ってないで、早く寝ようよ!」
私は渋るベイルくんを引っ張りこみ、眠りにつくのだった。これだけ疲れているのだ。昼まで眠ろう。昼まで……眠るつもりだったのだが――。
ドンッ、ドンッ!
という鈍い音に目を覚ます。
目をこすりながら身を起こすと、隣のベイルくんも、ぼんやりを目を開くところだった。何が起こっているのだろう、と鈍い思考をなんとか動かそうとするが……。
「開けろ! すぐに開けなければ、扉を破るぞ!」
なんだなんだ?
よく分からないけれど、誰かがめちゃくちゃ怒りながら扉を叩いているみたいだ。
「抵抗する気か!? 覚悟はできているのだろうな?」
「ちょ、待って!」
私が自分が危機的状況にあると察し、扉の向こうにいる何者かを宥めようとしたが……。
ズドンッ!と扉がへし折られ、何者かが入り込んできた。
その人は、美しい黒髪に整った眉、長身かつ背筋が伸びた、凛々しい男性だった。歳はたぶん、私より少し上くらい。そう、ドラクラ化したベイルくんにも勝るとも劣らない、美男子。
まさに美丈夫というやつだ。
「ちょ、超絶美男子じゃん……」
私の呟きに、ベイルくんが目を見開き、体を起こす。そんなベイルくんと私を交互に見た美丈夫は、怒気の表情をさらに濃くして言い放つのだった。
「貴様、ベイル様に何を……! ひっ捕らえろ!」
「はい?」
すると、美丈夫の後ろから屈強そうな男たちが現れ、部屋の中に雪崩れ込んでくる。
「ま、また犯罪者扱いかーーー!!」
こうして私は二日連続で縄に縛られることに。もう、ララバイ村で大人しくしてれば良かったのかなぁ……。
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