かくれんぼ①
幼いころ、兄さんがドラクラになれないと分かる前は、三人でよく遊んだ。リリアが好きだった遊びは、かくれんぼ。隠れるだけ、という単純な遊びを彼女が好んだ理由は、たぶん俺だけが知っている。
「リリア、みーっけ!」
「また見付かっちゃった! ベイルはどうして私の隠れる場所が分かるの?」
ライオネス邸で行われるかくれんぼは、絶対的にリリアが有利だ。それでも、兄さんはリリアをいとも簡単に見つけてみせた。いつも、何度でも。
「リリアの考えそうなことを考えれば、すぐに分かるよ」
兄さんはそう言って笑った。このころの兄さんが、リリアをどう思っていたのかは分からない。だが、彼女のことをよく理解していたいのは確かだ。なぜなら、俺がどんなにリリアを探しても、彼女を見つけられなかったのだから。
「ねぇ、ベイル。私は泣きたくなったとき、本気で隠れるけど、それでも見つけられる?」
「どうかなぁ。そのときのリリアがどんな気持ちなのか分かったら、たぶん見つけられるよ」
「本当に?」
二人のやり取りに、虚しさを感じた。彼女は俺の存在を忘れているみたいだったから。
「リリア様がいない! どこにも!」
サムライたちが騒いだのは、ビーンズ将軍の葬儀の日だ。父の死に塞ぎ込んだリリアは、葬儀前に皆の前から姿を消した。
「将軍の葬儀なのに、リリアがいないなんて……」
リリアを迎えにきた俺と兄さんも、どうしたものかと困惑していると、サムライたちに助けを求められてしまう。
「ライオネス邸から出ていないことは確かなのですが……幼馴染であるお二人に心当たりはないでしょうか?」
それを聞いて、俺はぎょっとした。かくれんぼだ。リリアは見つけて欲しくて隠れている。兄さんの顔を覗き見るが、リリアの本心に気付いている様子はなく、純粋に彼女の居場所を考えているみたいだった。
「仕方ない。フレイル、僕たちでリリアを探そう」
「う、うん……」
きっと、俺は見つけられない。リリアを助けられない。だけど、兄さんは簡単にやってのけるだろう。俺の横で、当たり前のようにリリアを救い出してしまうのだ。そんな恐怖に耐えながら、ライオネス邸へ向かう兄さんの背中を見つめていると……。
「ベイルくーーーん!!」
背後からスイさんの声が。
「スイさん!」
いつものように、ただ呼ばれただけで明るい顔を見せる兄さんに、彼女は言うのだった。
「葬儀会場の近くに、霧が出たんだよ! ライナスくんたちが植えたやつが完全に除去できてなかったみたい。将軍の葬儀まで時間がないから、私たちでパパッと除去しちゃおうよ!」
聞くところによると、霧はかなり大規模なもので、葬儀の時間までに除去できるのは、大聖女のスイさんと英雄と呼ばれる兄さんくらいだ。このころには、唯一ドラクラになれるという俺のプライドも失われていた。
「でも、リリアを見つけないと……」
兄さんはそう呟いて、俺の存在に気づいたように、こちらを見た。
「フレイル、リリアを頼んでもいいか?」
「……ああ、任せておけ!」
そう言うしかなかった。だけど、これは俺にとっては好機なのかもしれない。こんなときこそ、俺が彼女を見つけ出したら。
しかし、ライオネス邸をどれだけ探しても、リリアの姿は見付からなかった。迫る時間。これ以上、時間をかけたら兄さんだって帰ってきてしまうかもしれない。焦れば焦るほど、リリアが遠くへ行ってしまう気がした。
「困っているようだな」
俺以外に誰もいないはずのライオネス邸に、やつがいた。
「いつの間に……」
「そんな顔をするな。ベイリールのやつも、ここから遠ざけてやったのに」
「遠ざけて、やった?」
このとき、やつの発言の意味を追及していれば、兄さんたちが死ぬことはなかったのかもしれない。
それなのに、俺はリリアの居場所を見つけることで、頭がいっぱいだった。
「リリアの居場所、分かるのか?」
「たぶんな。ライム」
やつの背後から現れたのは、リリアの妹分で、やつの孫であるライムだった。
「あれを試してみよ」
「はい、お父様」




