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まるで別人みたいで

「どうか、どうか我らの村をお救いください! この通りです!」


デモンを対峙した後、青年になったベイルくんの足元で、地面に額をこすりつける村長。戸惑うベイルくんの代わりに私が答えた。


「もとより、この霧は私たちが払うと言ったはずです。任せておきなさい。その代わり……」


顔を上げた村長に、私は詰め寄る。


「帰ってきたとき、私たちをどう迎えるべきか、ちゃんと考えておきなさいよ……!」


「か、かしこまりました」


と、言うわけで私たちは霧の発生源である呪木を探すため、東の森に入った。森の中は村よりも霧が濃く、たぶん普通の人間なら息苦しくて、体力の消耗も激しくなる。デモンに襲われることだってあるだろうし、最悪の場合は命を落としてデモン化することもあるのだ。


「しかし、霧を発生させる呪木は……どこにあるのでしょうか?」


隣のベイルくんが低い声で聞いてきた。


なんて言うか、お腹に響く低音。

ちょっと変な感じ……。


「そこは私に任せて。大地に聞いてみるから」


「大地に聞く、ですか?」


「知らないの? 聖女の血はドラクラ化を促すだけじゃないんだから」


私は再び指先を切って、その血を大地に落とした。実は初めてやるのだけど、こうすることで大地から呪木の気配を聞き出すことができる。それは言葉にできる感覚ではないのだけれど、血が滴り落ちると同時に、体内に呪木の気配が響く……らしいのだ。


一滴、二滴と血が滴ると、確かにそれはあった。体の中で、波打つように響く何か。


「こっち、かな」


その方向にある、と胸の中で何かが訴えている。妙な緊張感に固唾を飲むと、ベイルくんが急に接近してきた。


「な、なに?」


「血が止まっていません」


「あ、うん。ちょっと深く切っちゃった」


「手を、こちらに」


「え?」


ベイルくんは戸惑う私の手を取ると、指先を口の中に含んだ。


び、びっくりした。

ドラクラ化を維持するための補給か。


でも、口を離すと彼は衣服の一部をちぎってから、それを私の指先で結んだ。


「菌が入っては、良くない」


「あ、ありがとう」


ベイルくんは、ふっと笑顔を見せると、私が指示した方向へ歩き出す。


なんだろう。

なんだろうなんだろう。


正体はただのちびっ子なのに、すっごい大人の男に見える!


あんなちびっ子を相手に緊張するんじゃないよ、私は!


「それにしてもさ」


私は歩きながら、妙にどぎまぎしてしまい、無駄に話題を探してしまう。


「村の人たち、大怪我した人もいなかったはずだよね。私たちのおかげだね、絶対に」


「いいえ。聖女様のおかげです。私は何もできず、ただ立っていただけ。せめて、村の人々を先に逃がすことくらい、できたはず……」


聖女様、って。

なんでスイさん、って呼んでくれないのだろう?


「そうかな? 逃げ出さなかっただけ、ベイルくんは凄いと思うけど?」


ベイルくんは首を横に振る。


「いいえ。弟であれば、きっと村人の退避を促すか、あの戦力でデモンを撃破する案を思いついたはずです。実際は、すぐにドラクラ化して事を収めてしまうでしょうけど……」


「弟くんはそんなに立派なの?」


「はい、自慢の弟です」


嬉しそうに微笑むベイルくん。きっと、弟くんと仲良しなんだろうな。


また少し歩くと、ついに呪木を発見した。黒い幹に黒い枝が特徴だ。大きさはちびっ子のときのベイルくんと同じくらい。呪木の中では並みのサイズだろう。


しかし、鼓動を刻むように小さく膨らんでは縮むを繰り返し、数秒に一回は大量の黒霧を吐き出す。このサイズでも放っておいたら、村一つを霧で飲み込んでしまうはず。


「よーし、浄化するよ! デモンがいないか、見張っててね」


「お任せください、聖女様」


周辺の警戒はベイルくんに任せて、私は再びナイフで指先を傷付け、血を滴らせる。これも初めてやることだけど、聖女の血で呪木は浄化されるのだ。


「天にまします我らが星の巫女よ。今こそ我が血に癒しの力を。そして、この地を汚す霧を払いたまえ!」


祈りの言葉に反応するように、呪木の鼓動が緩慢になり、やがて動きを止めた。


「ベイルくん、引っこ抜いちゃって」


「承知」


呪木の動きが止まったことを確認したら、根っこから除去。これを黒霧研究機関に売ると割と高い値段で買取ってくれるそうだ。


「これで事件解決だね」


私が指を二本立てると、ベイルくんが穏やかな微笑みを浮かべながら頷いた。

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