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放っておけない

「フレック?」


アオがこちらに気付いたので、俺はすぐさま駆け寄るが、一緒の男からあからさまに不快感を含んだ視線を向けられてしまう。


「よく寝ているみたいだから黙って出てきちゃったんだ。伝言、聞いてくれた?」


男の視線に気付いていないのか、マイペースに俺と話し始める。


「でも、ちゃんとお礼が言えてよかったぁ。本当にありがとね。フレックのおかげで、張り切って呪木除去に向かえそう」


「いや、そうじゃなくて……」


そうじゃなくて、なんだろう。俺が言葉を選んでいると、アオと一緒にいた男が口を開いた。


「なんだ、相棒がいたのか。だったら、俺に頼る必要ないと思うが?」


「あ、違うの違うの!」


気分を害したと言わんばかりの男に、アオは手を振って否定する。


「この人は昨日ちょっとお世話になったってだけで、組む予定はないから。この人こそ、ちゃんと相棒がいて、他の人とは組めないタイプなの」


アオの説明に、男は鼻を鳴らす。


「不貞反応か。そんなものも抑えられないとは、情けない男だ」


俺は男を観察する。

つばの広い帽子に、赤いマント。そして、腰に下げた剣は騎士かドラクラだとアピールするようだが……。


「この人はレスタさん。ベテランのドラクラでトランドスト騎士団に入っていた経歴もあるだって」


無邪気に紹介してくるアオ。男……レスタは自らの経歴を誇るように、薄く笑みを浮かべた。


「凄いよねぇ。トランドスト騎士団と言えば、王都の騎士だよ。剣術も凄いんだろうなぁ」


「彼と組むつもりなのか?」


「そりゃそうだよ。こんな場所で、トランドスト騎士団に入っていたドラクラと組めるなんて、超ラッキーなんだから」


「それは、そうだろうな」


もう一度、レスタに視線を向ける。隙あらば斬ってやろう。そんな殺気を含めてみたが……。


「行くなら早く行こう。霧の中で戦うなら、明るいうちがいい」


そう言って、レスタは俺に背を向けて歩き出す。トランドスト騎士団の人間が、これほど無防備だろうか。せめて、本当にドラクラであってほしいのだが……。疑う俺の気持ちなんて知る由もなく、アオは積極的だ。


「そうだね。まだ午前中だけど、ぼやぼやしていたら呪木にたどり着く前に、日が暮れちゃうものね」


「横取りするやつだっているかもしれないからな」


歩き出すレスタ。その立ち振る舞いは、どう見ても剣の心得はない。


「じゃあ、行こう!」


レスタの後を追おうとするアオだったが、俺は思わず彼女の腕を掴んでいた。


「どうしたの?」


「いや……その、相棒はもう少し慎重に選ぶべきだ」


アオは首を傾げる。


「十分選んだよ。フレックが寝ている間も、私は早くから相棒探しをして、やっと彼を見つけたんだからね」


「しかし、どう見ても頼りない」


「そう? 経歴は十分だし、自信もあるように見えるよ?」


どうすれば彼女を説得できるのか。悩んでいると、俺は視界の隅に掲示板が立てられていることに気付く。何気なくそこに視線をやると……。


『新王フレイル。誕生祭』


でかでかと俺の写真が乗ったポスターが貼られている。


ま、まずい。

なぜこの場所、このタイミングで……!!


「おい」


いつまでも追ってこないアオに痺れを切らし、レスタが戻ってきたかと思うと、俺に詰め寄ってきた。


「俺に何か文句あるのか? 難癖つけて、その子を奪い取るつもりみたいだが、言いたいことがあるならハッキリ言えよ」


アオが「そうなの?」と、こちらを見てくるが、俺は動揺するばかりで何も言えなかった。最悪の場合、レスタを軽く捻ってやって、恥をかかせてやれば去って行くだろうと思っていたのだが、ここで騒ぎを起こしたら、俺が王だと気付く人間もいるだろう。しかも、こんな大きなポスターがすぐそばにあるのだから……。


「ふんっ」


いつまでも黙っていると、レスタは嘲るよな笑みを見せた。


「惚れているなら、そう言えばいいだろう。できないなら、この手を離すんだ」


アオの腕をつかむ俺の手を、レスタは強引に引き離すと、彼女を連れて行ってしまう。しばらくは呆然としていたが……。


「放っておくわけにはいかないだろう!」


自分を罵り、彼女らの後を追うのだった。

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