愛しているから
ライナスくんの身体能力は今まで以上だった。一息でベイルくんの背後に回ったかと思うと、剣を横に振るう。ベイルくんは振り返りつつ、斬呪刀でそれを受け止めたが、勢いに押されたのか何歩か後ろに下がった。
「凄いぞ、この力! 今の俺は誰にも止められないぞ!」
ライナスくんは、その力に手応えを感じたのか、怒りの表情に歪んだ笑みを乗せる。そして、さらに詰め寄り、剣を突き出す。ベイルくんはそれを払うが、やはり力に押されるのか、バランスを失ってしまった。
「死ね、ベイリール!!」
勝ちを確信したライナスくんが剣の一撃を落とす。それはベイルくんの脳天を叩き斬ったように見えたが……。
「やめましょう」
ベイルくんがライナスくんの背後に。彼の姿を見失っていたライナスくんは驚愕しつつ、振り返りながら斬撃を放った。が、既にベイルくんはそこにいない。
「ライナス兄さん」
再びライナスくんの背後に回っていたベイルくんが言う。
「もうやめてください。私は分かってしまった」
危機を感じた獣のように飛び退くライナスくん。
「な、何が分かったと言うのだ!」
焦燥感に迫られるようなライナスくんとは対称に、ベイルくんは落ち着き払い、やや憐れむような目をしていた。
「今の私は聖女様から無限に力が供給されています。そして、その聖女様はこの大地とつながり……星の巫女様につながっている。だから、先程ライナス兄さんの剣を受けたとき、私は感じたのです。手加減をしなければ、貴方を殺してしまうと!」
ライナスくんは言葉を失ったようだ。今までになかった力を手に入れたはずなのに、それを上回ると言い張るベイルのことを信じられなったらしい。
だから、彼の表情は再び怒りに染まっていく。体はさらに黒く染まり、目の赤い輝きが増す。彼の体は明らかにデモンへ近付いていた。
「そんなわけがあるか! お前のような、何もできないチビに! 周りに恵まれていただけのチビに! 星の巫女による祝福が与えられるわけがない……。仲間を助け、国を救う俺こそが、相応しいんだ!」
ライナスくんが剣を振り上げつつ飛び出すが、彼が間合いを詰めるよりも先に、ベイルくんが動く。横一閃の斬撃は、ただ空を斬ったが、そこから生まれた衝撃波がライナスくんを吹き飛ばす。
「な、なんだ……今のは」
力の差を感じただろうか。
尻もちをついた状態で、混乱するライナスくん。だが、驚いている暇ではないと、すぐに立ち上がろうとするが、目の前にベイルくんの姿が。
「分かったでしょう。勝ち目はないのです。降伏してください。今なら……」
「ここまできて、逃げられるのもか。頭を下げられるものか。終われるものかぁぁぁーーー!」
ライナスくんは剣を投げつける。
ベイルくんは最小限に首を傾げ、それを躱すが、その隙にライナスくんは立ち上がり、真っ黒に染まった拳を突き出した。それは見事にベイルくんの腹部に入り、彼の体を吹き飛ばす。
「エメラルダ!」
鳥を誘うようだった彼の美声は濁り切っていた。
「血を寄越せ! もっと血を飲めば、あいつに勝てるはずだ!」
エメちゃんはいつものように無表情で、眼前まで歩み寄った彼の懇願を受け止める。
「ライナス、死んじゃう。もうダメ」
「頼む。これで、最後だ」
エメちゃんの肩を掴むライナスくん。
「やめるんだ、ライナスくん」
私の声に彼は動きを止めてくれた。
「君の体は限界だ。それ以上は無理だ」
「スイさん、黙っていてくれ。最後まで……納得できるまで、やらせてくれよ!!」
彼の感情が私に流れ込んでくる。
痛いほど強い想い。それでも……。
「ダメだ。エメちゃん、彼から離れて」
しかし、エメちゃんは動かない。
「エメラルダ、頼む……」
動かない彼女を、ライナスくんは赤く染まった目で見つめた。そして、すがるように彼女の両肩をつかんだ。
「お前を愛している……。愛しているから」
その言葉に、エメちゃんはわずかに目を見開く。そして、彼女は思考の渦に吞み込まれるように俯くと、ゆっくりとライナスくんに体を寄せた。
「ありがとう」
ライナスくんはエメちゃんの細い体を抱き締めると、差し出された首に犬歯を突き立てる。阻止するため、私が意思の手を伸ばし、ベイルくんも駆け寄るが、ドンッという衝撃波がそれを吹き飛ばしてしまう。
「ベイリール、今度コソ……オ前ヲ殺ス!!」
全身を黒く染め、赤い目だけでなく、頭には二本の角。それはほとんどデモンの姿だった。そして、その傍らで膝を付き、項垂れるエメちゃん。
「ゼンインコロス。ダレヒトリトシテ、オレハユルサナイ!!」
獣のように、飛びかかってくるライナスくん。ベイルくんは瞳を閉じて、痛みに耐えるように顔を歪めるが、再び目を開き、斬呪刀を強く握りしめた。
そして、すべてを終わらせる一撃が振るわれるのだった。
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