◆ずっと前から私たちは
ベイリールはただ逃げ回るしかなかった。彼を追うデモンは、今まで奪われた仲間の仇を討つと言わんばかりに、ベイリールを執拗に追ってくる。しかも、少しずつ霧が濃くなったせいで、呼吸も苦しくなり始めた。
「スイさん! スイさんのところへ行かないと!」
自分には何もできない。もう一度彼女の血を飲んだら、死ぬことだってあり得る。それでも、彼は彼女のもとへ向かうしかなかった。
ただ、無力なことは変わらない。気付けば、複数のデモンに囲まれていた。
「もう、ダメなの……?」
ベイリールはどこかに生きる術はないかと、左右を確認すると、血に濡れた一本の剣を見つける。
「邪魔をするな!!」
剣を拾い上げ、デモンに斬りかかるが、虫でも払うような一本の腕に吹き飛ばされてしまった。胃が痛い。これはスイの血を飲んだせいに違いないのだが、ベイリールはそれを認めなかった。
「僕は行くんだ……。スイさんのところに、行くんだ!!」
痛みを振り切り、立ち上がるが、彼を見つめるデモンの瞳は、さらに増えていた。
「ぼ、僕は……!!」
再び決意の言葉を口にしようとするベイリールの眼前で、デモンが腕を振り上げる。太い腕の先端から突き出る爪は、簡単にベイリールを引き裂くだろう。
「し、死ぬものか!!」
無慈悲に振り落とされる、ナイフのような爪だったが……。
「ギリギリセーフ!!」
甲高い音と共に、デモンの爪が弾かれた。次に襲ってくるだろう痛みを恐れ、目を閉じていたベイリールだが、助けがきたのだ、と理解する。
「ふ、フレイル?」
「兄さん、待たせた!」
「私もいるんだから!」
リリアの干渉によって動きを止めるデモンたち。それを見たフレイルはすかさず敵を斬る。
「兄さん、立って! 行くところがあるんだろ!? それに、ほら! 忘れものだぞ」
フレイルは背負っていた斬呪刀をベイリールに渡す。それを受け取りながらも、ベイリールは目の前で起こったことを理解できないようだった。
「二人とも……助けてくれるの?」
「当たり前じゃない。私たち、ずっと前から……支え合って生きてきたんだから」
「でも、僕はリリアに……」
つい先程の出来事を振り返るベイリールだが、リリアが「いいから!」と顔を赤らめながら叫ぶ。二人のやり取りを見て、フレイルも笑みを浮かべた。
「そうだよ。気持ちを伝えたり、謝ったり、そういうのは……もう少し後にしようぜ!」
「……ありがとう」
「で、どっちに行くんだ?」
ベイリールは頷く。
「たぶん、謁見の間だ。そこにスイさんがいる、と思う」
「分かるの……??」
リリアは知っている。フォグ・スイーパにお互いの位置を感じ取るような能力がないことを。だが、ベイリールは確信していた。
「何となくだけど、分かるんだ。この感じ、僕とスイさんはまだ何かでつながっている気がする。だから、次こそは……変身できると思う」
「分かった」
信じられない話だが、フレイルは平然と受け入れた。
「俺たちがそこまで兄さんを守る。だから、スイさんを助けて、ライナスと決着を付けてくれよな」
「……うん!」
三人は謁見の間へ向かうが、十体を超えるデモンが行く手を阻んだ。
「くそ、ここで戦っているうちに、どんどん霧が濃くなっちまう! 兄さん、この先は一人で行けるか??」
「行ってみる! ここは任せたよ」
走り去っていくベイリールの背中を見守りつつ、フレイルは隣のリリアに聞いた。
「止めなくていいのか?」
「相棒を置いて行くわけにはいかないから」
「……ふーん」
含みのある笑顔に、リリアは動揺する。
「なによ」
「なーんか、俺にもチャンスある気がしてきた!」
「……し、知らない!」
顔を背けるリリアを見て、細やかな幸福を感じるように微笑むフレイルだが……すぐに真剣な面持ちに変わる。
「……それにしてもさ」
「うん、ちょっと数が多いかも」
いつの間にか、デモンの数が増えている。二人は、仲間の協力なしに、これだけのデモンを撃破した経験はない……。
一方、二人と別れたベイリールだったが……。
「な、なんでこんなにデモンが!!」
道を阻むデモンの群れ。それは、フレイルとリリアが戦っているデモンと同程度の数だった。もちろん、戦う術のないベイリールが、これを突破するのは不可能だ。
「ど、どうすれば……スイさんのところに?」
さらに襲い掛かる胸の痛み。
この状況、既にテロ攻撃に収まらない事態となっていた……。
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