奇襲
王様とライナスくんの戦いは、なかなか決着がつかなかった。どんなに打ち合っても、決定的な瞬間は訪れず、まさに互角だ。
いや、むしろ王様が押している。
あれだけ強かったライナスくんを上回るなんて!!
「遅い!」
ライナスくんの一撃を躱し、王様は剣撃を落とす。それによってライナスくんの剣を叩き落すと、さらに拳を突き出した。王様のパンチはライナスくんの顔面を打ち抜き、彼はよろよろと後退して、ついには尻もちをつく。
そして、戦いの終わりを告げるように、王様の剣先がライナスくんの前に突き立てた。
「ライナス、これで終わりだ。兄上の子である以上、命は奪わないが……残りの一生は地下牢で過ごしてもらう。可哀想ではあるが、ここまでのことをしたのだ。せめてもの慈悲と知れ」
「まだ、終わっちゃいない!」
立ち上がろうとするライナスくんを憐れみの目で見下ろす王様。何とか剣を拾おうとする手を伸ばすが、王様はそれを踏み付けた。
「終わったのだよ」
改めて決着を告げる王様だったが、ライナスくんの戦意はまだ失われていない。その心を折るための一撃が必要だと思われたのだけれど……。
「…………」
王様は動かなかった。もしかして、躊躇っているの……かな?
すると、王様がわずかに表情を歪めて……。
「ぐうっ」
突然、口元を抑えて後退りする。
何だか苦し気だけど、指と指の間から血が漏れ出した。
その隙に、ライナスくんが剣を取り、王様を襲う。王様は咳き込みながらも、ライナスくんの剣を捌くが、すぐに限界はやってきた。
立場逆転。
今度は王様が尻もちをついた状態で、ライナスくんが見下ろす形となった。
「どうやら、私には資格があったようだ」
血走った目でライナスくんは勝ちを確信する。
「まさか、貴方も聖女の血に毒されていたとは……」
「若いころ、血の濃い聖女に支えられていたからな」
そうだったんだ……。
だから、王様は変身を避けて、ベイルくんやフレイルくんに呪木の除去を任せていたのか。
再び激しく咳き込む王様を見て、ライナスくんは勝ちを宣言した。
「星の巫女は私に祝福を与えた。この国を変えてみせろと、そう仰っているのだ! 王よ、運命を受け入れろ!」
王様は疲弊しきった様子で、それ以上は抵抗する様子を見せなかった。ライナスくんはそれを認めると、ゆっくりと剣を振り上げる。
「安心しろ、この国は俺が救って見せる! だから、ここで!!」
最後の瞬間が訪れる。誰もがそう思ったが……。
「ライナス、覚悟!!」
「なにっ!?」
ライナスくんは振り返って何者かの接近に気付く。ただ、それは少しばかり遅かった。
「ぐあああっ!」
銀の剣がライナスくんの脇腹を裂き、血が吹き出す。どこからか現れ、ライナスくんに強襲をしかけた人物は……。
「れ、レックスさん!?」
そう、レックスさんだ。
彼はここで押し切るつもりか、猛攻を見せる。
しかし、ライナスくんはドラクラだ。いくらお腹から血が出ていたとしても、普通の人間で勝てるかどうか……。
「レックス団長! どこから出てきた!?」
「玉座の裏には、万が一のための隠し通路がある。お前を仕留めるため、そこに潜んでいた!」
「小癪な!」
「小賢しい策を重ねてきたお前だけには言われたくない!!」
レックスさんの剣は、何度もライナスくんの体を傷つけた。でも、最初の一撃みたいな決定的なものはない。ただ、ライナスくんの疲弊も明らかだ。
お願い、レックスさん……彼を止めて!
「ライナス!」
このタイミングで声を上げたのは、エメちゃんだった。彼女はレックスさんに干渉を仕掛けるつもりだ。
「やらせない!」
私はさっきの傷が塞がっていなかったので、エメちゃんの干渉を防ぐ。私だっていつまでもへこんでいられない!
ライナスくんに悪いけど……絶対に彼らのテロを阻止するんだ!
血の効果が切れたのか、ライナスくんが子ども姿に戻る。
「ライナス!!」
エメちゃんが彼を助けようと叫ぶが、私の干渉と戦うので精一杯だ。ドラクラの力を失ったライナスくんなら、レックスさんも勝てるはず……!!
ここまできたら、負けられない。そう決心した。決心したのに……。
「ここで王を……愛する人を守れないとは。……無念だ」
「騎士団長、剣に迷いがあったな……!」
ライナスくんが剣を引き抜く。レックスさんに突き刺さった剣を……。
「ぐはっ」
レックスさんは血を吐き出し、よろよろと後退ったあと、私の前で倒れた。
「う、ウソ……」
「スイ、様……」
私は叫ぶ。
「助けて! ベイルくん、助けて!! レックスさんが……レックスさんが!!」
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