彼女の前で口説くなよ
「スーイさん」
エメちゃんと初めて喋った次の日、今度はライナスくんが話しかけてきた。
「な、何か用? そろそろ目隠しだけでも取ってもらえないですかね」
「ごめんねぇ。でも、目隠し取ったら、干渉を使われちゃうかもしれないし、それはできないよ」
「君は聖女の力が見えるんだろ? それに、私が干渉しようとしたら、エメちゃんに守ってもらえばいいじゃん」
いつもなら、テンポよく会話のラリーを返してくるライナスくんだが、このときは変な間があった。
……そうか、すぐ傍にエメちゃんがいるんだ。二人の中で、何か意思の疎通があったのかもしれない。
「うーん、やっぱりダメかなぁ。スイさんとやり合ったあと、エメラルダはいつも不機嫌になるから」
「そんなこと、ない」
うわぁ、やっぱりエメちゃんいたよ。しかも、私のすぐ横にいたんだ!!
エメちゃんの主張に対し、ライナスくんは何を思ったのか小さく溜め息を吐いた。
「まぁ、どっちにしても、今日でこの生活も終わりだから。その目隠しが取れる頃は……この国はひっくり返った後さ」
「……どういうこと??」
ライナスくんが笑顔を浮かべた、気がする。
「明日、俺たちは決戦に挑む。仲間を何人失うか、分からないけど……。俺が新たな王になって、国を変えるんだ」
「ダメだよ、ライナスくん。私は馬鹿だから深いことは考えられないけど……こんなやり方じゃあ、君が王様になっても、いつか悪いことが起こる気がする。……そうだよ、もしかしたら、君たちの戦いに巻き込まれてい死んじゃった人の家族が、次のテロリストになって、復讐を始めるかもしれない。もっと正しい方法があるんじゃないかな?」
「……確かに、たくさん時間があれば、スイさんの言う正しい方法を探すことだってできるかもしれない」
「でしょ? 私たちはまだ若いんだ。もっと、色々と挑戦して、難しい問題に――」
「げほっ!」
私の言葉は、ライナスくんの咳に遮られた。
「げほっ、げほっげほっ!!」
咳が激しくなっていく。
そして、その音はベイルくんが最近繰り返した、あの咳によく似ている気がした。
「俺には時間がないんだ」
「……どういうこと?」
「ベイリールのチビと一緒さ。強すぎる聖女の血に、体が耐えられなくなっている」
「……なにそれ」
「スイさんは田舎で聖女をやってたところ、いいパートナが見付からなかったんだろ?」
「な、なんで」
「どんなドラクラも、スイさんの血を飲んだから吐いてしまう。それは、普通のドラクラじゃ耐えられないほど、血が濃かったからだ。どんなに良い薬でも強すぎると毒になる。スイさんの血は……そういうものなんだよ」
じゃあ、私は聖女としての才能がなかったわけじゃない、ってこと?
衝撃を受ける私に、ライナスくんんは続ける。
「俺やベイリールのチビは、ドラクラの体質でありながら、その適正が著しく低い。だから、スイさんやエメラルダのような濃い聖女の血に耐えられた。でも、毒は毒だ。使えば使うほど、体はおかしくなる」
またも、ライナスくんが激しく咳き込んだ。
「ライナス……」
たぶん、エメちゃんが彼の背中をさすったのだろう。少しして落ち着いたのか、ライナスくんは再び口を開く。
「この調子じゃあ、ドラクラになれるのも、あと五回。いや、三回かもしれない。どっちにしても、体だって不調がある。腕なんてさ、デモンみたいに黒くなり始めて、それが広がりつつあるんだ。続けたら、どうなるか分からない」
目を塞がれているせいか、ライナスくんの声が震えているって、私には分かった。
「だから、その前に決着を付ける。俺が王になって、みんなを助けるんだ」
私は言葉が見付からなかった。ライナスくんは自分を犠牲にしてでも、貧民街の人たちを助けようとしている。私は彼を止められるだろうか。いや、その前に……。
「スイさんには俺を止められない」
まるで、私の考えを察したかのように、ライナスくんは言った。
「俺を止められるドラクラは、ベイリールだけだ。でも、あいつだってもう変身できないはず。今頃、黒ずんだ体を必死に隠しているだろうな。スイさんも、あいつを犠牲にしてまで、俺を止められる?」
私が黙っていると、ライナスくんが立ち上がる気配があった。
「そういうわけだから。明日は、スイさんも人質役として協力してもらうから」
そして、遠ざかっていく彼の気配。だが、完全に立ち去る前に振り返ったようだった。
「スイさん、もし俺が無事に王様になったら……そのときは、結婚しようね」
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