呪われた王子たち
家の外は大騒ぎだが、レックスさんも将軍も動じることなく、人質にナイフを突き立てるライナスくんを凝視していた。
「おい、テロリスト。その女の子を離しな」
将軍の指示に、ライナスくんは不敵な笑みを浮かべる。人質に取られている女の子は、帽子を深々とかぶり、俯いているので表情は分からないが……たぶん、怖くて動けないようだ。
「この女、どこぞの貴族の娘らしく、親に嫌気がさして逃げてきたそうだ。数日前、拾ってやったが……俺も運がよかったなぁ。将軍、あんたも貴族様の娘を巻き添えにするわけにはいかないだろう?」
しかし、将軍は刀を収めることはなく、むしろ一歩前へ進んだ。
「お、お父様……」
その毅然とした態度は、実の娘であるリリアちゃんも呟きを漏らすほどだ。だが、覚悟を決めていたのは、将軍だけではないらしい。
「ライナス、無駄な抵抗はよせ」
私たちの横に立っていた、レックスさんが剣を抜く。
「その子に傷を付けてみろ。次の瞬間、貴様の喉に穴が開くぞ」
「……怖いなぁ、騎士団長まで」
しかし、ライナスくんのナイフは、女の子の首にしっかりと突き立てられている。むしろ、切っ先が皮膚の中へ入り、少しずつ血が流れ始めた。
「待ってよ、ライナスくん」
私はライナスくんと将軍の前に立つ。
「……お姉さんのことなんだろ、君をそうさせたのは」
「……」
「確かに、君たち姉弟に起こった不幸は、王家や貴族の人が関係しているかもしれない。だけど、そんな彼らの中には善人だっている。ここいる人たちだって、みんな善人だよ。だから、一緒に……」
「違うんだ!!」
ライナスくんが遮る。
そして、またも瞳に憎悪の炎が浮かび始めた。
「スイさん、こいつらは善人なんかじゃない。特に将軍、あんたはそろそろ気付いているんじゃないか?俺の正体のことを」
全員の意識が将軍へ向けられる。しかし、彼は何も言わなかった。
「もしくは、レックス団長。あんたも俺の気持ちが分かるはずだ。だから、ベイリールみたいな無能に付き従っている。違うか?」
「何を……?」
心当たりがないのか、レックスさんは目を細める。が、ライナスくんはそれを事実であるかのように、主張するのだ。
「俺の名前、ライナス・トランドストは偽名なんかじゃない。本名だ。しかも、ベイリールとフレイル、お前たちと同じ、王家の血を意味している」
「……なんだって?」
驚きの声を上げたのはレックスさん。他のものは、声すら出なかった。いや、将軍を除く、他のものなのかもしれないけど。ライナスくんは続ける。
「俺は、ドラクラになれなかったってだけで、暗殺されかけた呪われた王子の息子なのさ。将軍、あんたは知っているんだろう。現国王に兄がいたことを!」
衝撃の事実を突き立てられたが、将軍は眉一つ動かしはしなかった。
「ドラクラになれなかった俺の親父は、暗殺されかけて命からがら逃げてきた。そして、平民の女と結婚し、姉さんと俺を生んだが、王子としてのプライドが捨てられなかった親父は、まともに働くこともできず、貧民街に流れついたのさ。
もちろん、貧民街に上手く溶け込めなかった親父はすぐに死んだ。母さんも心労で死に、そこからは姉さんと二人で生きなければならなかった。
最悪だったよ。パン一つかじるだけでも、命を懸ける必要があった。……俺と姉さんは、ただ親父が特別な力を持っていないかった、というだけで地獄に落ちたんだよ」
ライナスくんは声を荒げる。
「たったそれだけで、王子の命すらゴミのように捨てるのが、トランドストという国だ。そんなつまらないエリート意識の果てに、姉さんは死んだ。姉さんは……優しくて、貴族どもより、よっぽど価値のある人間だったさ!!」
ライナスくんはレックスさんと将軍を交互に見た。
「さぁ、レックス騎士団長、ビーンズ将軍! 俺を斬るか? 王家の血を引く俺を斬るのか!?」
室内が静まり返る。
いや、それだけではない。気付くと、外から聞こえてきた騒ぎも……静まり返っていた。
「き、霧が入ってきた」
将軍の後ろに控えていたサムライの一人が呟く。確かに、室内に室内に霧が漂い始めていた。それを目の当たりにした瞬間、誰もがわずかな動揺を抱いてしまう。
いや、ライナスくんと人質の女の子以外の誰もが……!!
私は気付いた。
でも、それは遅すぎたのだ!
「違う、その子は人質なんかじゃない!!」
私が声を上げると、ライナスくんが動いた。
「やれ、エメラルダ!!」
人質の子は、家出した貴族の娘なんかじゃない
。ライナスくんの聖女、エメちゃんだったのだ!
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