最後の説得
ライナスくんの隠れ家とされる場所は、何の変哲もない一軒家だった。二階建ての、貧民街の中にあるとは思えない、綺麗な家だ。
「よかった。時間に間に合ったようです」
ほっと一息吐くレックスさんに、私は頭を下げる。
「ごめんなさい、私のせいでギリギリになって……」
「いえ、スイ様のおかげでライナスの動機を知れました。もしかしたら、説得の材料になるかもしれない」
「だとしたら、説得はスイさんに任せるべきだと思う。……げほっ」
ベイルくんが提案してくれたが、またも彼は咳き込みだしてしまう。
「ベイル様、本当に大丈夫ですか? 熱を測らせてください」
レックスさんはベイルくんの額に触れ、少しだけ目を細めた。
「微熱ですね。やはり、この作戦は……」
「だ、ダメだよ。ライナスと戦うことになったら、互角に渡り合えるのは僕だけなんだから」
「しかし……」
「お願いだよ、レックス! それに、戦う前にスイさんが説得してくれるかもしれないじゃないか」
レックスさんがこちらを見る。確かに、ベイルくんの体調は心配だ。でも、ベイルくんが言う通り、戦う前にちゃんと説得すれば……。もしかしたら、次のチャンスはないかもしれない。ここで、終わらせるんだ。
「うん、ベイルくん。私が説得してみせるよ」
大きく頷く私に、レックスさんは躊躇いの表情を見せるが……。
「二人とも、身を潜めて。やつが帰ってきました」
物影に隠れ、ライナスくんの家の方を窺うと……確かにいた。ライナスくんが何気ない足取りで家の中へ入って行く。
「ニンジャたちの情報通りです。二人とも、いいですか?」
レックスさんも覚悟を決めたらしい。私とベイルくんが頷くと、彼も頷き返してくれた。
「三十秒後、突撃です。私の後について走ってください」
そして、時間が流れる。
たった三十秒が本当に長く感じられた。
そして、ついにレックスさんが走り出す。私たちもそれに従い、隠れ家の方へ走った。
私たちは裏側から。将軍たちが正面で、リリアちゃんとフレイルくんが側面の大窓から入り込むことになっている。他にも、騎士団やサムライの人たちが家を包囲し、ライナスくんを逃がさない作戦なのだが……。
「入ります!」
レックスさんが裏口のドアを開ける。室内は整頓されているけど、少し暗い雰囲気だ。ライナスくんはこんなところで、どんな生活をしていたのだろうか、と想像している間もなく、私たちはリビングに突入していた。
驚くライナスくんを想像していたが……。
「やぁ、待っていたよ諸君」
ライナスくんは部屋の隅で笑みを浮かべていた。部屋の中には、将軍と三人のサムライ、リリアちゃんとフレイルくん、それに私たち三人が、出入り口のなる場所を塞いでいる。彼には逃げ道なんてなかった。ただ……。
「下手に動かないでね。動いたら、この家出少女を殺すから」
彼はナイフを手にして、女の子を盾にしていた。
「ライナスくん、人質を取るなんて……。逃げられないんだから、もう終わりにしよう!」
将軍たちが動く前に、私が発言した。
「君の気持ちは分かっている! でも、暴力で世の中を変えるくらいなら、もっと違う方法を一緒に考えようよ。私だって協力する。みんな一緒だったら、それができるはずだよ!」
「スイさん、言ったはずだよ。もう遅いんだ。この国は、既にたくさんの罪を犯している。それを洗い流すためには、王族や貴族どもの血が必要だ」
「そんなもの必要ない! ちゃんと話し合って、一つずつ解決する方法だってあるはずだよ」
私の言葉が届いたのだろうか。ライナスくんの表情から薄い笑みが消えた。
「……そうかもしれないね。でもさ、スイさん」
しかし、次に浮かんだ表情は増悪に溢れるものだった。
「俺の気が済まないんだよ。全員に俺の苦しみを味合わせるまで、俺の怒りは消えやしない。分かるか、ベイリール!!」
その目は、なぜかベイルくんに向けられていた。
「スイちゃん、こいつはダメだ」
将軍が前に出る。
「性根まで腐っちまったやつは、簡単に戻れはしないんだ。そういうやつらが、周りまで腐らせちまう前に斬ってやるのがサムライの役目だ。だから、下がってな」
将軍が腰に下げていた刀を引き抜く。
「待って、まだ話したいことが!!」
引き止めようとするが、私の声を掻き消す悲鳴が外から。そして、わずかにこんな声が聞こえてきた。
「霧だ! 霧が出たぞ!!」
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