初めての気持ち
「で、熱はどうなの?」
リリアちゃんは自然な調子でベイルくんの額に触れる。
「大丈夫だよ、寝れば治るから」
「ちょっと、大人しくして!」
照れているのか、拗ねるように顔を背けようとするベイルくんだったが、叱られてすぐに大人しくなる。
「うーん。微熱って感じかな? 何か食べたいものは? 汗、拭いてあげようか?」
「だから、大丈夫だって!」
ベイルくんは強がるが、リリアちゃんはマイペースにタオルを濡らし始める。
「ほら、首元を拭くから顔上げて」
「や、やめろって!」
「言うこと聞きなさい!」
リリアちゃんはテキパキとした手付きで、ベイルくんの顔回りを拭いてあげる。ベイルくんは不服そうな顔だが、満更でもないのかされるがままだ。
「ふふっ」
手を動かしながら、リリアちゃんが笑みをこぼす。
「なんだよ」
「一年くらい前も、同じことあったよね」
「あ、あのときは……」
「分かってる、あのときは仮病だったんでしょ」
「うっ……」
「レックスの剣術訓練から逃げたかったんだよね。厳しくされて拗ねちゃってさ」
「拗ねてないよ。本当に調子が悪かった気がしただけ」
「私にまで嘘吐かないで。ベイルが正直になれる相手なんて、私くらいなんだから」
「……そうかもしれないけどさ」
「ほんと、変なところで強がりなの、変わらないね」
二人のやりとりを少し離れたところで傍観する私。
……これ、存在忘れられてそうだな。
ほんのりと感じてしまった寂しさが漏れ出していたのか、ベイルくんが私に気付いた。
「スイさん? そんなところで、何しているんですか?」
リリアちゃんもこっちに振り向き、小さく吹き出す。
「どうしたんですか? いつも以上にぼーっとしちゃって」
そう言って二人が同時に声を上げて笑い出した。ほとんど同じ顔で。
「なんかさ……」
思わず、私は呟いた。二人が目を丸くして続きを求めてきたので、言わなければいいのに、私は思ったままのことを口にした。
「二人って本物の夫婦みたいだね」
「「!?」」
リリアちゃんは素早くベイルくんから離れ、激しく目を泳がせた。
「な、ななな何を言っているんです。私たちは、その……ただの幼馴染、っていうか!!」
「でも、何て言うのかな……二人の空気って言うか、リズムって言うか、凄く濃厚な何かを感じたよ、私は」
「だから、それは幼馴染だからですよ」
溜め息交じりに反論するのはベイルくんだ。
「小さいころから、大人たちは僕たちのことをからかうんです。当人同士はそういう気持ちなんてないのに」
ベイルくんのぼやきに振り返るリリアちゃん。その目は鋭く怒気に満ちている。
「そんな不満が出てくるなら元気ってことね! 私はもう帰ります!」
ツカツカと音を立てて立ち去ろうとするリリアちゃん。
「何を怒っているんだよ」
その背中にベイルくんは問いかけるが、リリアちゃんは「知らない!」と言い残して、出て行ってしまった。パタンッ、と閉められたドアを見てベイルくんは溜め息を吐く。
「昔からよく分からないタイミングで怒るんですよ、リリアは」
「あははっ、うちのパパとママとこんな感じでよく喧嘩してたなぁ。やっぱり、夫婦みたいだね、ベイルくんとリリアちゃんは」
「だから、夫婦って言うのはやめてください!」
「なんでさー。実際にそうなるかもしれないんだから」
そうなのだ。
ベイルくんはいつか結婚する。
リリアちゃんとベイルくんが、結婚かぁ……。
そう頭の中で呟いた瞬間、頭の中でここ最近の色々がフラッシュバックした。それは大人のベイルくんと一緒に戦ったり、迫られたり、大変な記憶ばかりなのだけれど……
最後はいつもの、子どもの姿のベイルくんの笑顔で締め括られた。
「あれ?」
胸を押さえ、顔色を変える私に、ベイルくんが首を傾げる。
「スイさん? 大丈夫ですか?」
「え? ああ、うん。大丈夫。何でもないよ」
「??」
なんだろう、この胸のモヤモヤ。
何をどうしたら、こんな感覚になるのか、自分でも分からなかった。
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