同じ男です
「ちょっと! そこは自分で洗うから!」
くすぐったい……。
「待って、そこは触っちゃダメ!!」
恥ずかしいだろ……。
「撫でるな! 揉むな! 指で摘まむんじゃない!」
もう、やめて……。
ベイルくんに好きなようにされてから、お湯に入ったが、異様に近くに座られてリラックスできない……。こんなに夜景が綺麗なのに、私は水面ばかりを見ていた。
はぁ、何で子ども相手に私は緊張しているんだ。
自分にがっかりしていると、ベイルくんがさらに顔を寄せてきた。
「な、なにさ」
「大事な話があります」
「だから、なにさ!?」
その綺麗な顔を近付けないでくれ!!
しかし、動揺する私にベイルくんはさらに迫ってくる。
「……私は聖女様を信じていますが、あの男に口づけを許したという事実は、本当にないのですね?」
「あれはライナスくんのウソって言っているだろ!!」
「ライナス、くん……ですか」
ベイルくんが目を細める。
お、怒らせたわけじゃない、よね?
「分かりました。では、今ここで私に口づけを許してください」
「ななな、なんでそうなるの!?」
「聖女様の初めては、すべて私のものです。もし、何かの偶然や不幸があって、それを他人に奪われてしまったら、と思うだけで……手が震えます」
し、知らないよ!!
勝手に震えてろよ!!
「だから、まずは私と口づけを」
「ダメだって!!」
彼を押し退けようとするが、ドラクラの怪力を前に、私なんて非力なもの。むしろ、抱き寄せられてしまった。もう本当に……唇が触れそうなんですけど。
「ま、待って。ベイルくん……」
「嫌なら抵抗すればいい」
してますけど?? って言うか……。
「その前に、君は……子どもなんだよ?」
「抵抗感はあるが、嫌ではない、という意味ですか?」
「ちが、ちがちが! そんな話しじゃなくて、子どもとキスするなんて、おかしいじゃん!」
「なぜです? そもそも今は子どもではありません」
「そう、かも、しれないけど……」
「理由がそれだけなら、問題ありませんね?」
「いや、あるある! 大ありだって! だって、それにさ! こういうことは好きな人とやるべきでしょう?」
「好きです、聖女様。貴方を愛している。誰よりも」
……くそぉぉぉぉぉ、こんなイケメンに言われると、素直に嬉しいんですけど!!
待て待て私!
だから、今は大人の姿ってだけで、この人は子どもなんだって!
その前提を忘れちゃダメだよ。
「そ、それは大人の君の気持ちで、子どものベイルくんの気持ちとは限らないだろ! そんなのダメ。絶対にダメ!」
自制する私だが、ベイルくんは呆れたように肩を落とした。
「何度も言わせないでください。同じ男なのです。少しサイズが変わっただけで、いつどんなときでも……貴方を愛している」
……くそぉぉぉぉぉ、こんなイケメンに言われると、素直に嬉しいんですけど!!
こんな甘々なセリフ、昼ドラだって聞かないぞ!!
それがイケメンに言われたら、こんな嬉しいものなんて、知らなかったぁぁぁ!!
興奮抑えきれない私を見て、ベイルくんは了承を得たつもりになったのか、指で顎にそっと触れると、クイッと持ち上げてきた。
「では、よろしいですね?」
これは……顎クイだ。女の子が憧れるナンバーワンのあれ!!
でも、よろしくないんだって!
まだ、何かあるはず。このベイルくんとキスしちゃダメな理由が、あるはずだ!
「あ、そうだ!」
私は一番の理由を見つけ、慌てて口にする。
「リリアちゃんだ! 君には婚約者がいる。どこの馬の骨とも知れない田舎女と、こんなことしちゃダメじゃないか!」
「……」
お、やったか?
「……それは、小さい私の事情であって、今の私の事情ではない」
「ほ、ほえええ??」
お前、いつも「同じ男です」って言っているじゃないか!!
なに都合よく別物みたいな扱いにしているんだよ!!
もはや詐欺師といっても過言ではないベイルくんは、こう付け加えた。
「そもそも、まだ婚約者ではありません。それに、彼女にはフレイルがいる。私が聖女様を愛してならない理由は……ありません」
「いや、でもさ。でも、でもでも!!」
ここで二人の気持ちをベイルくんにバラしちゃうわけにもいかないし……
他に何か理由がないのか??
目を泳がせる私に、ベイルくんが優しく囁いた。
「分かりました。嫌なら嫌と言ってください。そうでないなら、そのまま口を結んで」
「その、私は……嫌とか、じゃなくて……」
もう、何も言えなかった。
それは許したのと同じ……。
満天の星空、宝石を散りばめたような夜景。
私の初めては、そんなシチュエーションだった。
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