聖女選定
「さぁ、ベイリール様!」
村長は私の対応が終わると、すぐにベイルくんの方へすり寄った。
「この娘はどうです? 何を隠そう、私の娘の一人ですが、長い時間かけて修行させています。王族聖女の資格はもちろん、今後の伸びしろ十分です。ぜひ! ぜひ!!」
人垣の隙間から、困ったように眉を寄せるベイルくんが見える。村長が自分の娘だという聖女の背を押し、ベイルくんに近付けると、彼はやや顔を赤くして目を背けるのだった。
「ふがふがん、ふっがー!」
呼びかけたが、まるで言葉にならない。
村長の娘だという聖女は、ベイルくんの前に膝を付くと、何やら囁き、笑顔で首を傾げた。ベイルくんも何やら返事をして、コミュニケーションも取れているようだ。
くそぉぉぉ。
あの聖女、村長の娘とは思えないほど、けっこうな美人じゃないか……。
しかも、ベイルくんのやつ、一丁前に照れてやがって!
「しかし、村長も必死だな……」
何やら村の人たちの声が聞こえてくる。
「何をあんなに必死になっているんだい?」
「わかんないの? 自分の娘が王子様の聖女として、フォグ・スイーパになったとしたら、自分だって王族になるチャンスだよ。王族になれなかったとしても、家の名は確実に上がる。すごいチャンスなんだよ」
「ああ、それでね」
そ、そういうことか……!
村長のやつ、村長のやつ……
私と狙いが一緒じゃないかーーーっ!!
これは絶対に譲れない。
ベイルくんの聖女は、私なんだから!
しかし、村長は会議室の真ん中で手を叩く。
「では決まりですな!」
先ほどまでの騒がしさが一瞬で収まると、村長は得意気に言うのだった。
「私が娘、エレクトラがベイリール様の聖女として、ご助力いたそう。みんな安心しろ、ベイリール様が霧を払ってくれるぞ!」
「ま、待ってください。僕にはスイさんが――」
ベイルくんが私の名を出してくれたが、村長の娘――エレクトラが急にベイルくんの手を取る。そして、動揺するベイルくんに向かって言うのだった。
「ベイリール様、安心してください。私が全力でサポートいたします。どうか一緒に呪木の排除を」
「あ、あの……僕は」
ベイルくんは顔を赤らめながら、何かを探すように視線を巡らせる。私を探しているに違いない!
「ふがふが! ふがー!」
嗚呼、どんなに叫んでも、これではダメだ。
「皆さん!」
村長の娘が言う。
「私、エレクトラがベイリール様と一緒に、必ず霧を払います。この災害は間もなく終わるのです!」
歓声が上がるが、エレクトラの後ろで不安そうな顔をするベイルくん。
ちくしょう、ベイルくんを渡すものか!
「ふっがー!」
私は何とか自らの存在を主張しようとしたが、村人たちの歓声によって掻き消されてしまうのだった。
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