震える血
どうやら、ライナスくんの身のこなし、剣術はベイルくんを圧倒的に上回っているようだ。でも……。
「二人なら勝てないわけじゃない! そうだろ、ベイルくん」
「はい、聖女様。引き続き、援護をお願いします」
私は集中力を高め、再び意識の手を伸ばそうとするが、ライナスくんが鼻を鳴らした。
「スイさん、可哀想だなぁ。干渉の使い過ぎで頭が痛いんじゃない? 俺だったら、スイさんの力は頼らず戦うのに」
その指摘に、ベイルくんは明らかな躊躇いを見せてしまう。
「耳を貸しちゃダメ! ここが集中どころだよ!」
「……はい!」
返事は悪くないけど……本当に大丈夫かな?
いや、私もベイルくんを信じるしかない。
私は意識の腕を一気に三十も出した。ライナスくんの言う通り、その負担は凄まじく、頭痛に加えて吐き気もやってきた。
ただ、ここで出し惜しみする私じゃない!
私はベイルくんの動きに合わせて、ライナスくんの足元を狙う。ここ最近の私たちは、連日のように呪木除去のために戦っていたので、連携も完璧だ。隙がないと思われたライナスくんも、少しずつ綻びを見せ始めた。
「つかんだ!!」
そして、私は確かにライナスくんの足を捉える。絶対的なチャンス!
ベイルくんは左手にレックスさんの長剣、右手に斬呪刀を持ち、一気に踏み込む。突き出された長剣を払い、凌いで見せるライナスくんだが、私の拘束によってバランスを崩してしまった。
「くそっ!」
そこに斬呪刀による一撃を繰り出そうとするベイルくん。
「終わりだ!」
先程と同じく、爆発的な一撃が放たれると思われたが……!!
「なんだ!? 斬呪刀が動かない……」
ベイルくんの斬呪刀が止まる。
いや、止められている??
「……そうだ、どこかに私以外の聖女が!?」
ホテルのロビーで、デモンたちを止め、ライナスくんをドラクラにした聖女が、どこかにいる。その子がベイルくんの剣を止めたんだ!
ライナスくんは、状況を把握できずにいるベイルくんを蹴り飛ばすと、一度距離を取ろうとした。
「逃がさないんだから!」
でも、私はそれを許さない。
意識の手を使って、謎の聖女による拘束からベイルくんを解きつつ、ライナスくんを追う。私だって大聖女と呼ばれているだ。
拘束できる数なら負けないし、聖女とドラクラを同時に相手することだって!!
「……あれ、ウソでしょ??」
しかし、私は感じ取った。
謎の聖女が伸ばす意識の手。
それは私に負けないくらいの数だ。
これでは、ベイルくんの援護ができない!!
「ベイリール、ここで死ね!」
私と謎の聖女が小競り合いをしている間に、ライナスくんがベイルくんへ突進する。しかも、直線的ではなく、上下左右のフェイントが織り交ざり、ベイルくんは完全に的を絞り込めていない。
ライナスくんはベイルくんの右側に回り込む。たぶん、ベイルくんからしてみると、急に現れたように見えただろう。
「もらった!」
「ぐっ!」
ベイルくんは、ライナスくんの一撃を受け切れず、手に握られていた長剣は手から離れて、彼の頭上を高々と舞う。それでも、ベイルくんは必死に斬呪刀で迎え撃とうとするが、ライナスくんは既に目の前にいなかった。
「ベイルくん、後ろ!」
振り返ったときには、ライナスくんが剣を横一閃に振るっていた。ベイルくんの胸板が裂かれ、血が飛び散る。が、それほど深い一撃ではない。
ベイルくんは再び斬呪刀を構えるが、ライナスくんが剣を振り下ろし、それを叩き落とした。斬呪刀すらベイルくんの手から離れ、彼は無防備になってしまう。
「今度こそ終わりだな、ベイリール。地獄で罪を償いやがれ!!」
ライナスくんが最後の一撃のため、剣を振り上げる。
だが、やらせるわけには!!
私は意識の手を伸ばすが、謎の聖女の干渉によってそれが許されない。私が限界まで腕を増やしても、一本すらライナスくんの方に向けられないのだ。
「だからと言って……!!」
その瞬間、私の中で何かが震えた。上手くは言えないけど、血が震えた……気がする。すると、頭痛も吐き気も消えて、視界がハッキリした。
「これなら……!!」
私はさらに意識の腕を増やした。
追加の十本!
それでライナスくんの剣を止めて見せる。
「馬鹿な、エメラルダ以上の聖女だって言うのか!?」
驚くライナスくんをさらに拘束する。
「ベイルくん、今だ!」
私の声に反応し、ベイルくんは斬呪刀を拾上げ、すぐさま振り回した。ドンッと爆風が巻き起こり、ベイルくんの目の前にあるものが、吹き飛ぶ。今度は、逃げられなかったはず……!!
「いや、まだだ」
私はライナスくんの気配を察知した。まだ元気に動いている。だったら、もう一度捕らえるまで。私は意識の手を伸ばして、土煙の中を動く、彼の後を追ったが……。
「まだやれるの!?」
謎の聖女も負けるまいと、意識の腕の数を増やすのだった。
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