一歩及ばず
ベイルくんは一直線にライナスくんへ向かう。間合いが詰まると同時に、剣を横一文字に。しかし、ライナスくんはそれを軽々と飛び越え、私の方に突っ走ってきた。
「スイさーん! 愛してるよ!!」
「ふざけるな!!」
踵を返したベイルくんは、凄まじいスピードでライナスくんに追いつくと、その背に剣を振り降ろした。ライナスくんの背中が裂かれた、ようみ見えたが、それは彼の上着を少し傷付けただけ。むしろ、華麗に体を捌き、ベイルくんの足を払った。
「なに!?」
ライナスくんに軽く足をすくわれ、倒れ込んでしまうベイルくん。そこに、銀の煌めきが落とされ……鋼の音が霧の中に響いた。重なり合う剣と剣。しかし、体勢としては倒れているベイルくんの方が不利に見えるけど……。
「よっわ! その程度で、これからスイさんを守れるのか?」
ライナスくんの罵倒にベイルくんは表情を歪める。
「スイさんも俺の方がいいよね?」
追い打ちのつもりか、私に声をかけてくるライナスくん。
「私は子どもにそういう感情を持ちません!」
私が言い返すと、ベイルくんは目の前の剣を払い、ライナスくんの腹部を蹴り飛ばす。そして、素早く立ち上がると、剣を突き出した。
「やっぱり、チビの剣は軽いな」
言葉の通り、ライナスくんはベイルくんの剣を軽々と払い、反撃の裏拳を振る。それは見事にベイルくんの顎を弾き、ベイルくんの膝から力が抜けた。
たたらを踏むように後退りするベイルくん。その背には、焦りが感じられた。
「英雄と呼ばれる王子がこの程度なら、トランドスト王国の歴史も終わりだな」
ライナスくんの挑発にベイルくんは奥歯を噛みしめる。
もしかして……なんだけど、ベイルくんが押されている?
今まで、どんな敵だろうと圧倒的な力を見せつけてきたベイルくんが??
「これは焦らなくても、スイさんは俺のものになるかなぁ」
度重なる挑発に、ベイルくんは感情のまま飛び出してしまう。二度三度、剣が交錯するが、最終的にはライナスくんがいなして、ベイルくんを転ばせるか、後退させる展開が続いた。
このままじゃ、本当に負けてちゃう!
「ベイルくん、援護するよ! いつもみたいに、協力して倒そう!」
私は短剣を取り出し、手の平を切る。そして、空間に干渉してライナスくんの足元に意識を潜り込ませた。
「俺には通用しないよ!」
ライナスくんは私が逃した意識の手を斬る。しかし、それは隙を見せるも同然。ベイルくんは一気に踏み込み、ライナスくんの胴を狙って剣を振った。
タイミングも完璧!
これは勝った!
と思ったのに、やはり後一歩が届かない。
「私だって本気を出しちゃうんだから!」
私は意識の手をどんどん伸ばし、さまざまな方向からライナスくんを包囲する。
「スイさんったら、そんなに俺を抱き締めたいんだね! 嬉しいけど、そうはいかないよ!」
ライナスくんは次々と私の意識の手を斬っていく。凄いスピードで斬られてしまうものだから、意識の手は一本たりとも彼に届かないけど、だったら増やすだけ。私は体に負担を覚えつつも、意識の手を増やす。
私の限界、三十本に達すると頭痛に襲われた。それなのに、ライナスくんの身のこなしは凄まじく、一瞬でも彼に触れることはない。
ただ、その間にベイルくんが背中にあった斬呪刀を手にする。そして、十分に腰を落とし、ドンッと地を蹴って距離を詰めると、何もかもを引き裂くような大剣の一撃が放たれた。
ズドーンッ!と、爆発音に近い音と衝撃が広がり、土煙が舞い上がる。
「げほっ、げほっ!」
咳き込みつつ、視界が晴れるのを待つと……。
「だ、大丈夫……かな?」
ベイルくんが斬呪刀を振った周囲は、地面が抉れて、何もかもが吹き飛ばされていた。
凄い破壊力だ。
あの中心にいたライナスくんは……?
「心配ありがと、余裕で生きているよ」
その声は背後から。振り返ると、美形の唇が迫ってきた。
「や、やめんかぁぁぁ!!」
何とか両手で抵抗するが、少しずつ形のいい唇が迫ってくる。や、柔らかそうだ……。
「聖女様!」
すぐさま駆け付けたベイルくんが、斬呪刀を突き出すが、ライナスくんは私から体を離すと、飛び上がる。そして、綿毛のように宙を舞うと、何事もなかったかのように着地するのだった。
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




