ライナスの姦計
バキッ、と音を立てて入り口の扉がへし折られた。後一度でもデモンが扉を叩けば、やつらは中に侵入できるだろう。そんな中、ライナスくんは歌でも口ずさむような調子で、こんなことを言うのだった。
「さて、そろそろ潮時みたいだし、テロリストらしく要求を伝えておこうかな」
「要求だと?」
「そうだよ。意味もなく命を懸けてテロを起こすほど、俺たちは馬鹿じゃない。要求はまず、スラム街に水と食べ物を供給し、安定するまで彼らの生活を支えること。次に、住居建設の支援。そして、雇用創出のため、彼らの技術習得を支援すること。要求をのまなければ、テロは続く!」
本当に……スラム街の人たちのためにやっているんだ。しかし、レックスさんは驚きを隠せないようだった。
「待て! スラム街に対する支援は既に行っている。これ以上は……」
「足りないんだよ。あそこで毎日何人死んでいると思うんだ? そんな環境だってことも知らず、何が支援だ。これだから、貴族様は困る。これで、ベイリールみたいな役立たずが次の国王になったら、どうする? トランドスト王国の歴史はおしまいだな」
「ぼ、僕は……」
ベイルくんが一歩前に出た。
「父上がやり切れていないことまで、やれるか分からない。でも、この国がもっとよくなるよう、頑張るつもりだ。だから、スイさんを離せ!」
勇敢にも自分の意志を伝えるベイルくんだが、ライナスくんは彼を鼻で嗤った。
「つい最近まで、ドラクラになれなかったお前に、できるわけがないだろう。スイさんのパートナーとしても、お前は相応しくない。スイさんも俺のものだ!」
……なんだ?
ライナスくんらしくない、ような?
彼はもっと冷静で、常に人をからかうような、飄々としたところがあるのに、ベイルくんに対しては妙に感情的じゃないか?
「君、ベイルくんに……」
そんな疑問を直接ぶつけてみようと思ったが、背後から響いた破砕音によって遮られる。デモンが扉を破り、ホテルの中に入ってきたのだ。
私の真横をデモンがゆっくり通り過ぎる。しかも、一匹ではなく、二匹三匹と続いて……。誰もが静かにデモンの挙動を警戒し、緊張感を高めた。
そして、デモンの雄たけびがホテルのロビーに響き渡る。
殺戮の合図。
そう思われたが、ライナスくんが叫んだ。
「今だ、エメラルダ! やれ!」
エメラルダ?
人の名前みたいだけど……誰だ??
だが、私は何が起こったのか、瞬時に理解する。デモンが小さく痙攣しつつ、その動きを止めていたのだ。
それなのに、騎士のみんなはデモンが暴れ出すのではないか、と様子をうかがい、テロリストたちの動きを見逃している。
そうか!
これは、ライナスくんの作戦だ。皆に伝えないと……!!
「聖女だ! 聖女が干渉している! 皆、テロリストたちを逃がしちゃ……むぐっ!?」
しかし、後ろから手が伸びて、私の口は塞がれてしまった。そして、耳元にライナスくんの声が。
「ごめんね、スイさん。俺のことが好きなら、霧の中まで追いかけてきてね!」
そして、手が離れたかと思うと、後ろから思いっきり尻を蹴り付けられた。
「ぎゃんっ!!」
私は頭から突っ込むようにして床に倒れ込む。
「いってぇ……。あ、ライナスくん!?」
振り返ると、干渉によって動きを封じられたデモンたちの間を縫うようにして、ライナスくんが外へ出て行くところだった。他のテロリストたちも、騎士たちがデモンに恐れを抱いている間に、ライナスくんと同じようにして、外へ出て行ってしまう。
ちくしょう、逃がすものか!!
「ベイルくん、あいつを追うよ!!」
しかし、ベイルくんは首を横に振った。
「ダメですよ、スイさん! デモンだけじゃなく、霧も入り込んできている。まずは皆を避難させないと!!」
確かに、ベイルくんの言う通りだ。ライナスくんを助けた聖女は、彼と一緒に逃げたのか、デモンたちが動き出す。
「あー!! しゃらくさい!!」
私はライナスくんが落として行ったナイフで手を切り、ホテル内に入ってきたデモンたちを止める。だけど、これじゃあライナスくんを追えないじゃないか!!
歯を食い縛る私だったが……。
「やっと、俺たちの出番ってわけだね」
「ベイル、ここは私たちに任せて、さっきのリーダーを追って!」
最悪の状況と思われたが、最高の援軍が現れた。
「よし、リリア。久しぶりに俺たちが大活躍するぞ」
「はいはい。調子に乗らないようにね、フレイル!」
そう、フレイルくんとリリアちゃんが来てくれたのだ!
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




