聖女、階段にて恋愛相談を受ける
バイトくんと顔を合わせることを避けるため、私たちは階段を一段一段降りて、一階へ向かった。しかし、子どもたちの元気なこと……。二人は身軽に階段を降りて行くが、私は早々とギブアップ状態となってしまった。
「ま、待ってよう……!」
「一刻を争うんですよ?? 私たち、先に行きますからね!」
「り、リリアちゃんの鬼! 私が一人のときにテロリストに見つかったら、どうするのさぁ!」
「スイさんだって王族聖女の資格を持った、立派な聖女でしょ! 一人でも切り抜けられるはずです」
「私はリリアちゃんと違って、まだまだビギナーなんだよ。先輩として、ダメな後輩の面倒を見てくれてもいいじゃないの!」
「そんな余裕のある状況ではありません」
下手に出てもぜんぜん譲歩してくれないリリアちゃん。もう肺に火が着きそうだったので、私は最終手段を使うことにした。
「えええ……じゃあ、もういいよ。今までは黙っていたけど、全部ベイルくんに言っちゃうから」
タンタンタンッ、とリズムを立てて階段を降りていた、リリアちゃんの足が止まる。
「い、言うって何をですか?」
「リリアちゃんが裏では私に意地悪してくるって」
「い、意地悪なんて……した覚えはありません!!」
「今してるじゃん! ちょっと休もうって言っているのに、ぜんぜん聞いてくれない。今日だって、飲み物も奪い取ってさぁ。私、喉からからだったんだよ?」
「そのあと……別の飲み物を持ってきました。あれはたまたま飲んでしまっただけで、意地悪のつもりはありません!」
「はいはい、わかったよ。だからさ、少し一緒に休憩してくれたら、ベイルくんには黙っててあげるから。お願い、休もう?」
リリアちゃんは振り返ると、恨みのこもった目で睨んできた。
あー、怖い。
怖いけど、少し休めるなら、ロリっ娘に睨まれるくらい、全然いいや。
「ちょっと座ろう。五分で良いから! 五分で! ねっ?」
リリアちゃんは何かを抑え込むように深く呼吸してから、腰を下ろした。ライムちゃんもリリアちゃんの隣に座ったので、私はその場に寝そべった。
「あーーー、もうダメ。本当にダメだ」
「これくらいでバテるようなら、ベイルのパートナーは務まらないと思いますけど」
……そういうところが意地悪って言っているんだけどなぁ。
「ねぇ、リリアちゃん。気持ちは分かるけどさぁ、そんなに突っかからないでよ。私だって、リリアちゃんが嫌いでベイルくんとフォグ・スイーパを組んでいるわけじゃないんだから」
「き、気持ちってなんですか!」
怒るリリアちゃんの横で、リリアちゃんが呟く。
「姉さまがベイル兄さまにほの字になっていることでは?」
「ほ、ほの字? なにそれ??」
リリアちゃんが困惑する。
って言うか、ライムちゃんはなぜその言葉を知っているのさ!
私の心を読んだように、ライムちゃんは説明する。
「レックスに教えてもらいました。惚れている、という意味なんだとか」
「ほ、惚れ……!!」
「姉さま、知らなかったのですか? 最近の若い女性の中で、流行り言葉らしいですよ」
動揺するリリアちゃんだが……
レックスさん、ちょっと前に私から聞いた言葉を広めてない?
流行り言葉じゃなくて、田舎の言葉なんですけど。
「あ、話を遮ってすみませんでした。姉さま、どうぞスイさんの質問にお答えください」
い、良いんだよ、ライムちゃん。
ここで話しが終わっていた方が、よかったんだって!
リリアちゃんもリリアちゃんで、真面目に自分の気持ちを言葉にしようと考え込んでいる。そして、リリアちゃんが口を開いた。
「だって……私とベイルは、ずっと前から一緒だったんですよ? スイさんには分からないくらい、私はずっとベイルのことを考えていた。どうすれば喜ぶのか、何をすれば楽しむのか、何を話せば興味を持ってくれるのか……。そんな気持ちが、何も響かないとしたら、私はどうすれば……」
やれやれ。リリアちゃんよう、自分の気持ちを押し付けようとする恋愛は、まだまだ子どもの恋愛なんだぜ(恋愛未経験者)。ここは年長者として、一つ言ってやるか。
「じゃあさ、その気持ちは伝えたの?」
「そ、それは……」
「言葉にしなくても伝わると思っているのなら、それはただのワガママってものだよ。あとさ……」
言うべきか言わぬべきか、迷ったのだが……憧れの年上の女性から、格言を聞ける瞬間を、大いに期待する目で、リリアちゃんが見てくるものだから、私は言っておくことにした。
「リリアちゃんが想うように、君を想う誰かがいたとしたら、君はどうするんだい?」
私から出た言葉が、イメージしていたものと違ったのか、リリアちゃんは不満げに顔をしかめてから、そっぽを向いてしまった。
「そんな人、現れたこともないので、まったく想像できません」
……嗚呼、フレイルくん。
色々とつらいだろうけど、頑張るんだぞ!
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