苦手な人とはできるだけ
やっと私たちの順番がきた。シワくちゃなエンゲ爺さんに、ベイルくんが頭を下げる。
「エンゲ殿、お健やかに誕生日を迎えたこと、心より御祝い申し上げます」
「うむ。ベイリールこそ、先日は大きい成果を上げたと聞く。よくやった」
「いえ、私はまだまだ未熟者。その件は、こちらの大聖女、スイ・ムラクモ様の導きによるものです」
ベイルくんはエンゲ爺さんに私の活躍をアピールしてくれるのだが……
や、やめてくれぇ。
私は人に褒められることは大好きだけど、この爺さんだけは苦手なんだ。できるだけ、関わりたくないんだよぉ。
「噂は聞いている。数々の奇跡を起こしているらしいな」
私は会釈を返し、とりあえず大人しくしておくことにしたが、エンゲ爺さんは黙ったまま、地獄の穴みたいな暗い瞳で私を見つめるのだった。
な、なんだよジジイ。
私に何か言えってこと?
会釈だけでは間が持たない、と思い始める私だったが、エンゲ爺さんが再び口を開いた。
「力が増して行くような感覚はあるか?」
「……え?」
意外な質問に私は驚くが、爺さんの言うことは身に覚えがあった。
「あ、はい。そうですね……少しずつ干渉できる数が増えているような気がします」
そう、実際にテロリストたちと戦ったとき。自分でも信じられない数を相手に干渉し、足を止めたのだ。力が増している、と言って間違いないだろう。
「なるほど」
爺さんは私とベイルくんを交互に見た後、小さく言った。
「この後も、存分に励むように」
「はいっ!」
ベイルくんが再び頭を下げたので、私もそれに従うと、爺さんの相手は終わったようだった。
「なんなの、あの爺さん。なんか話してると、重たい気持ちになるよね」
私が本音を漏らすと、ベイルくんは苦笑いを浮かべた。
「スイさん、エンゲ翁は本当に凄い方なんですよ。武家たちの戦術や組織構造の基礎を作っただけでなく、呪木の研究者の第一人者でもあるんですか」
「えええ?? あんなボケたような爺さんが?」
「こ、声が大きいですよ。エンゲ翁は王都の土地やら生態系、風向きだとか様々な要素を長年かけて研究し、土を入れ替え、外壁を設置し、建物の配置も変えて……その積み重ねが、王都に霧が出ない理由と言われているんです」
「はぁ……。それ、他の土地ではやってあげられないの?」
「やってますよ。ただ、本当に色々な条件が絡み合っているそうなので、調査だけでも時間がかかるみたいです。それに、エンゲ翁やニアほど知識を持ったものが、たくさんいるわけではないので」
「じゃあ、あの爺さんって国どころか世界の安全に関わってくる、超天才ってことなの?」
「そういうことです。だから、父上も将軍も頭が上がらない人でもあります。と言っても、エンゲ翁が政治に口を出すことは滅多にありませんけどね」
「ふーん。でも、なーんか、いい人に見えないんだよなぁ」
「見た目で判断しちゃダメですよ。それより、やるべきことは終わったので、後はパーティを楽しみましょう。ご馳走もたくさんですよ」
「そうだった!!」
目の前に並ぶご馳走たち。これを平らげなければ!!
そこから、私は飲食するだけの獣となった。
「スイさん、無理しないでくださいね!」
ベイルくんは止めるが、私はそれを振り払い、次の皿へと突き進む。
「ここで無理しなければ、いつするのさ!! あ、こっちのジュースはなんだろう??」
綺麗な色をしたジュース。一気飲みすると、甘みの中に変な苦みが。
「あまり美味しくない……」
「……それ、お酒じゃないですか??」
「え、これが??」
大人たちが、あれだけぐびぐび飲むものだから、さぞかし美味しいのだろうと想像していたお酒だが、実際は大したことはなかった。なぜ、大人はあれだけお酒をありがたがるのだろう……と疑問に思っていると。
「ベイルくん、らんか暑いれす」
「え?」
「はつい、れす」
「スイさん?」
「ひょっと、トイレひ……」
「トイレですか? 一人で行けます??」
「たいひょうふ」
「ダメですよね。一緒に――」
しかし、大人たちがベイルくんに声をかけたかと思うと、何だか話しが盛り上がってしまう。ベイルくんが終わるまで待つつもりだったけど……我慢できないや。
まぁ、いいか。一人で行けば。
私はトイレを探すため、一人で会場を去るのだが……そこで思わぬ人に出会うのだった。
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