王子様のプロポーズで人生始まった
ポンコツ聖女が成り上がっていきます。しばらくは連続投稿しますので、よろしくお願いします。
「私は絶対に、こんな田舎から抜け出してやる!」
と、幼馴染のジョイに高らかに宣言したのは三日前。
「役立たずの聖女」
「一生、価値のないまま終わる」
「むしろ存在が迷惑」
そんな言葉と共に後ろ指をさされながら、超ド田舎で暮らしていた私。しかし、ついに勇気を振り絞って故郷のララバイ村から抜け出したのである。
そんな私の夢は一つ。
王都でバリバリ聖女として活躍した後、貴族か王族に見初められ、幸せなスローライフを送ること。
そのためにも、王都を目指して旅立ったのだけれど……。
「ここ、どこよ!?」
見渡す限りの荒野!
王都がどっちなのか、ララバイ村がどっちだったのかも分からない。
これじゃあ、王都でお金持ちのイケメンにチヤホヤされる前に、野垂れ死にじゃない!
「げ、黒霧まで出てきちゃった」
気付けば、昼間なのに薄暗く、黒い霧が私を囲んでいた。これは、千年前に魔女の呪いによって、神出鬼没で発生する霧。
これに触れると、植物は枯れたり腐ったり、デモンと言う化け物まで生み出す、恐ろしい霧だ。しかも、吸い込みすぎると普通の人間は死んでしまう毒でもある。
「まぁ、私は大丈夫なんだけどね」
なぜなら、私は聖女だから!
聖女なら黒霧の呪いを受け付けず、自由にその中を動き回れるのだ。
ただ、そんな私は聖女として欠点がある。それは――。
「だ、誰か……。誰か、そこにいるんですか?」
霧の奥から誰かの声が。
こんな濃い黒霧の中にいるなんて、超危険だ。助けないと……聖女の私が!
「ここにいます! 安心してください、私は聖女です!」
「え、聖女様ですか?」
弱々しい声は、この偶然な幸運に驚いているようだった。
「ほんと? 聖女様なの?」
「はい、そうです。しかも、超一流の聖女だから、任せてくださいね」
「ほ、星の巫女様……僕に最後のチャンスを与えてくれるなんて。本当に感謝します」
ん? なんだか声が幼い。少年だろうか。
「うんうん。安心してね。ただ、霧で何も見えないから、もう少し大きい声で喋ってみてね」
「聖女様、こっちです。こっちでーす!」
さっきまでか細かった少年の声が力強くなる。かなり必死のようだ。
「こっち、こっちですー!」
「はいはい今行くからねー!」
私は霧の中を手探りで進む。すると、霧が濃い部分を抜けたのか、視界が少しだけ開けた。同時に、探していた少年の姿も発見する。
「あ、いたいた! ほら、少年よ。聖女様が助けに来ましたよ! 感謝しなさい。そして、無事に自分の村に帰ったら、聖女スイ・ムラクモに助けられたと、できるだけ多くの人に話して回るのですよ」
「聖女様ー、こっちに……!」
少年はかなりのちびっ子だ。
たぶん、十二歳くらいかな。
良いところのお坊ちゃんなのか、小綺麗な恰好をしている。
「こっちに……」
再び声がか細くなった少年に駆け寄り、私は彼を抱き上げた。
「はい、安心。これで黒霧は近付いてきませんよ」
「た、助かりました。でも、聖女様。周りを見てください」
「周りを?」
言われるがまま、辺りを見回してみると……。
「げぇっ! デモンの群れやんけ!!」
囲まれていた。
黒い肌に二本の角が頭から生えた、デモンたちに!
「せっかく村を抜け出したのに、デモンの群れに囲まれるなんて……終わった」
そう、聖女は黒霧の呪いを受けないが、強いわけではない。人の身体能力を遥かに上回るデモンを相手にできるわけではないのだ。ここは逃げるしか……。
でも、この子供を担いで?
いや、無理だよね。
「ごめんね、少年。あれだけ大きいことを言ったのに、君を助けてあげられないみたい」
「せ、聖女様。僕を置いて逃げよう、って思っていますか?」
「……そんなことはないよ」
「変な間が、ありましたよね?」
なかなか賢い坊やだ。
「分かりました。ええ、分かりましたとも。私も聖女です。ここで諦めるわけにはいきません! 村一番の非力で有名だった私ですが、戦います。ええ、デモンの群れ相手でも全力で戦って見せます。だから少年。君はお逃げなさい!」
「せ、聖女様」
あ、でも……この黒霧の中ではこの子は動けないか。だったら、とにかく先手必勝。一番近くのデモンに必殺パンチを食らわせてやる!
「おりゃあああぁぁぁ!」
と、踏み出そうとしたが、デモンが私を見てうなり声を上げる。
「こ、こわ……」
思わず縮こまってしまった。
「ダメ、怖すぎる。やっぱり、無理。もう人生終わり。あーあ、せっかく王都で活躍したら、貴族か王族と結婚して、引退したら幸せなスローライフを送る予定だったのに……」
膝を折って今にも泣きだしそうな私。その背後から少年が話しかけてくる。
「安心して、聖女様。今度は僕が貴方を助けます。僕も聖女様みたいに……諦めない!」
「ありがとう。ありがとうね。でも、君みたいなちびっ子が、デモンの群れを倒せるわけがないでしょ。ごめんね、こんな頼りない聖女で」
「いえ、聖女様。こっちを向いてください」
「なに? ――って、えええぇぇぇーーー!」
振り向いた私が見たもの。
それは大口を開け、そこから鋭い犬歯を伸ばす獣……
いや、少年の姿だった。
「こ、こわああああーーー!」
そして、私の絶叫などお構いなしに、少年は私の首筋にかぶりついた。こ、この感じ……
血を吸っている。まさか……。
「貴方、もしかしてドラクラ……なの?」
少年が私から体を離す。首筋の痛みは既になかった。そして、私を見下ろす少年。いや、青年が一人。
「助かりました、聖女様」
「は?」
お腹に響くような低い声。
さっきまで、鈴の音を鳴らすような、可愛い声だったのに。
「この私が、デモンどもを殲滅します」
少年だったものは、私より二回りは大きいだろう、立派な男性の姿に。そして、彼は地に放られていた剣を取ると、一瞬でデモンの群れを一匹残らず灰燼にしてしまった……。
腰を抜かす私に、少年だったものが近付いてくる。
「ひ、ひい……」
少年だったものは、びびる私を軽々と抱き上げた。
そう、お姫様抱っこ、というやつだ。
「……聖女様。王都で貴族か王族と結婚したい、と言っていましたね」
「は、はい……」
こ、怖いんですけど、なんですか……?
震える私に、少年だったものは言うのだった。
「その夢、私に叶えさせてください」
「はぁ?」
「私はベイリール。ベイリール・トランドスト。トランドスト王国の、第一王子です」
「……なんですって?」
「聖女様……私と、結婚してください」
……よく分からないけれど、私の人生が始まった気がした。
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