僕たち夫婦は、お互いの前でオナラをしません
2月22日(木)晴れ
僕たち夫婦は、お互いの前でオナラをしません。これは、出会った頃からの、暗黙の了解です。
妻は、自宅では、なぜか頑なにトイレの鍵を掛けず、不意にドアを開けてしまった夫に、便座に座るさまを目撃されるたび、いつも「きゃきゃきゃきゃきゃ」とバカ笑いをしているようなお人であるので、オナラごとき、しようが、されようが、本当はどちらでもよいみたいですが、僕が嫌なんです。僕、そういうの、とても神経質になります。
思い返してみると、僕の両親は、お世辞にも立派な人間とは言えない、どうしようもない男と女でしたが、夫婦間でも、子供の前でも、なぜかオナラはしなかった。僕はそれに大きな影響を受けているのかもしれない。
うちの姉妹は、僕の前で面白がってぷーぷーオナラをする。「こらこら、女の子が、はしたないことをしてはいけませんよ」と、僕はいつも厳しくたしなめる。その甲斐あってか、思春期真っ只中のお姉ちゃんのほうは、最近は、おもむろに立ち上がったかと思うと、部屋の扉から廊下にお尻だけ出して、なぜか僕の顔をガン見しながら屁をこくまでには成長した。う~ん、彼女なりの精一杯のエチケットだと思うのだが、自分の顔をじっと見られながら屁をこかれるのは、やはり気分の良いものではない。なにとぞ勘弁してほしい。
妻のオナラを聞いたのは、この長い夫婦生活で、一度だけである。次女を産んだ直後。夫婦でバカ話をしていた途中、妻が大爆笑をした拍子に、どっかーん。え? 今の何? ビックバン? 今、世界がはじまっちゃったの? 妻のやつ、産後で気が緩んだり、あっちゃこっちゃ緩んでいたのであろう。かわいそうに。僕は、鳴りやまぬ耳鳴りにクラクラしながら、かろうじて聞かなかったことにした。
長く一緒にいる者同士だからこそ、最低限の礼儀はあって然るべき。エッセイでは、このような汚いことを書き散らしている僕ですが、家族だからと言って「何でもあり」が、すごく嫌なんです。僕、そういうの、とても神経質になります。僕、けっこう面倒くさいヤツなんです。