優しさに触れる
ファグルの行きつけであるという食堂に着くと、勝手知ったるといった風にあるテーブルに座った。
「勝手に座って大丈夫なの?店員さんも何も言ってないけど・・・」
「ん?大丈夫だ、もう少ししたらばあさんが来るから」
すると一人の老婆が席に近づいてきた。
「また来たんか、よく飽きないねぇ。今日もいつものでいいのかい?」
「あぁ頼むよ。今日は三セットにしてくれ、連れがいるんだ」
そう言われ老婆は反対側の席に座っているカルゼと修を見た。
「おや、カルゼも一緒とは珍しいこともあるもんだねぇ。もう一人は見ない顔だね、新人かい?」
「ばあちゃん久しぶりだね!まだ元気そうでよかった!この子は修って言って近いうちにこっちに入るみたいなんだよね!」
「そうかいそうかい、まだ若いのにしっかりしてそうだねぇ」
まじまじと見てくる老婆に困惑して修は固まってしまった。
「そんなことはいいから料理を頼んだよ!」
「はいはい、さっそく作ってくるからねぇ、少し待っときなさい」
老婆が席を離れると修は二人にあの人の事を聞いてみた。なぜならこの街の首長ベッツと同じ空気を感じたからだ。
「あの人ってどんな人なの?首長と同じ空気を感じたんだけど・・・」
「さすが修だな、あの人は首長の奥さんで俺のばあちゃんなんだよ」
さらっと衝撃の事実を口にしたファグルに驚きを隠せない。しかしその事実を知った事で先ほどの老婆と二人の会話が納得かいった。
「ほんとばあちゃんはいつまでも元気だよね!81歳とは全然思え
カルゼから老婆の年齢を聞いた修はまたも驚愕していた。
「81歳って本当に言ってるの?全然見えないしまだ60代くらいだと思った・・・」
「わかる!前からそうなんだよね、ばあちゃんはそのくらいから全然老けなくなって若々しい見た目のままなんだよね!」
修が知らないこの街の歴史を実際に見ているような気がして楽しくなる気がした。
「俺としても家族がいつまでも元気でいてくれるのは嬉しいからな。それにこの店の味は小さい頃から慣れ親しんだ味だからいつまでも食べていたいんだよな」
しんみりした様子のファグルを見て修は自分の祖父母を思い出していた。祖父母は修が小学三年生の時に二人とも事故に巻き込まれて亡くなってしまった。しかも一番修を気にかけていてくれたのが祖父母だった為に二人亡き後から虐待を受けていた。前の世界の事を思い出しだんだんとマイナスな思考になってしまったが、ちょうどその時に料理が運ばれてきた。おいしそうな料理と共に修の中に祖父母との楽しかった記憶が蘇ってきた。
「過去に何があったか私らにはわからんが過去の苦い思い出は捨ておきなさい。今だけはこれを食べて元気だしな!」
そう促され見るとおいしそうな料理が目の前にあった。二人のお皿を見てみると二人のお皿にはのっていないリンゴが修のお皿には乗っていた。
「なぁ、このリンゴって・・・」
「今頃気づいたか、カルゼが合流した時に驚いて落としそうになっていたから俺が持っていたんだ。このまま持っていても品質が落ちるかもだからばあちゃんに一緒に料理してもらった」
「そうだったんだな、ありがとう。」
おいしそうな料理を前にまたも修のお腹は盛大に鳴ってしまった。三人は照れて顔が赤くなっている修を優しい笑顔で見守っていた。優しい空気に包まれていたたまれなくなった修は、何事もなかったかのように食事を始めた。それを見てファグルとカルゼも食事を始めるのであった。