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興味と本心

暫くて泣き止んだ修は、羞恥心からかベンチの上で膝を抱えてその間に頭をうずめて座っており、その光景を二人はニヤニヤしながら見ていた。

「はぁ・・・恥ずかしすぎる・・・消えたい・・・・」

「こうしてみるとまだ子供だなって感じるねぇ!」

「まだ少しの付き合いだが修がどんな人間か知れて嬉しいな。これでこれからも遠慮なく自分を晒せるんじゃないか?」

まるで子供をからかうかのように言った二人をキッと睨む。

「ま、そう睨むなって!この世界でこの年で一人でいられるってのは十分優秀なんだよ!」

聞くとこの世界では孤児も含めて平均20~22歳までは親元から離れないのだとか。

「修は少し特殊だからこの法則には当てはまらないけど、カルゼの言う通り十分優秀なんだからもっと自信を持ってもいいんだ」

「・・・やっぱり俺、改めてこの世界に来てよかったと思ってる。元の世界では俺の事を褒める人なんていなかったし、家族も俺の事に関心なんてなくてさ・・・」

悲しそうに目を伏せる様子に二人は胸が締め付けられた。修の家族は、一家の出来損ないとして修をないがしろにしていたのだった。というのも小学生時代から優秀な兄姉と比較され、学校の成績はトップクラスではあったものの伸び悩んでいたのだった。いつしかトップクラスからも外れてしまい、学校に行っている時間以外は常に監視されるという毎日を送っていた。試験の成績が悪い時は暴力を振るわれることもあったし、娯楽の時間なんて一切持たせてもらえなかった。そして極めつけは祐介の死である。親友の死に心を痛め悲しむ暇もなく親からの虐待は常に続き、いつしか自分も祐介の元へ行こうと画策していた。しかしそんな思いの中でこの世界に飛ばされたことを明かした。

「そうだったんだな・・・悲しい事を思い出させて悪かった。もしよかったら明日も俺たちと一緒にいてくれないか?」

心配そうなファグルを目にして修はにこりと笑って二人に向き直った。

「俺の事が心配なら安心してくれ、この世界に来てから心がだいぶ軽いんだ。もうそんな考えは持っていないから大丈夫だよ。この世界には俺の話を聞いてくれる人がたくさんいるんだし!」

今までにないくらいの笑顔で二人に話す修の顔は、確かに朝見た時よりも晴れやかになっている。心の内を話す事が出来て気が楽になったのだろう。

「ファグルってこう見えて結構年下には構うんだよ?修と同い年の弟もいるし!」

カルゼが茶化すように言うとファグルに小突かれていた。

「なら大丈夫だな、じゃあ落ち着いたようなら次に行こうか」

そう言って三人は次の目的地に向かった。




「今日は特別に入れてもらえる様手続きしたけど、本来この図書館は入館時に手形が必要になる。一度発行すれば三か月有効になるが、期限が切れた手形は当然使えない。こまめに確認して期限が切れない様に注意するんだ。発行は三日ほどかかるから計画性持たないとな」

三人が次にやってきたのはシクラー資料館併設図書館だ。シクラーが作られてからの歴史をこの館内限定で見る事が出来る施設になっている。

「今後勉強するときはここに来ると良い。たくさんの資料があるから色々学べるからな。日没には閉館するから時間も気にしながら滞在すると良いよ」

修にとって日本語以外の言語はあまり触れていなかったから本や資料が読めるか心配だったが、それは杞憂に終わったらしい。一つの本を手に取り開いてみたが、そこには慣れ親しんだ日本語が羅列していた。

(読めても書けないんじゃあ仕方ないよな・・・)

ふとそんなことを思った修は二人に紙とペンを要求した。そしてすらすらと日本語を書き二人に見せる。

「これ読めるかな?」

「当たり前だ『ファクシーフォーズ』だろ?」

どうやらこれも授けられた能力らしい。言語の壁がなくなっていて、自分の知っている言語に反映されるし、対峙している人にも付与されると見た。

「悪い、少し試したかったんだ」

「だろうと思ったよ、お前はいきなり行動起こすからな」

やれやれといった風なファグルを横目に、カルゼがじりじり寄ってきて小声でつぶやいた。

「修、こっちおいで。とても勉強になるものがあるよ」

不思議そうに思いついて行ってみると、そこには植物の資料がたくさんあって、修は目をキラキラ輝かせながら資料を読み漁っていた。

「やっぱりね、修から植物が好きそうな雰囲気を感じてたから連れてきたよ。・・・って聞いちゃいないか」

苦笑いしながらやさしい眼差しでファグルとカルゼは修を見守っているのだった。




ハッとして修が周囲を見渡すと、二人が椅子に座りながら何かの本を読んでいて、すぐに二人の元に駆け寄った。

「す、すまない・・すごく興味を持っていた分野の本だったからつい楽しくなっちゃって・・・」

シュンとした様子に笑いながら修の頭を撫でファグルが言った。

「興味を止める事なんて出来ないんだからそれでいいんだ。これからもそうしたらいい」

「ありがとう・・・やっぱり優しい人と接していると心に余裕ができるし嬉しいものだな」

「でしょう!?それにいつでも俺たちを頼ってほしいな!俺たちの仕事でもあるから!」

賑やかにするカルゼをファグルが静かにするよう諫めた。そんなこんなで時計を見ると昼の時間になっておりこんなにも集中していた事は久しぶりだったので、気が付いてしまったら空腹を感じお腹がなってしまった。

「結構食いしん坊か?この近くに俺の行きつけがあるから行くか!」

「あぁ、いろんなものを食べてみたい。早速行こう!」

子供っぽい笑顔とカルゼ同様のワクワクとした様子で二人をせかす修。

「急かさなくても食事は逃げないからゆっくり行こうね!」

普通だったら制される側のカルゼに珍しく制される修。年上という事もあるからか修は大人しくそれに従って、三人一緒に図書館を出発するのだった。

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