自己の解放
市場に到着した修の目の前に飛び込んできたのは、大勢の人で賑わい客を呼び込もうと大きい声が響いていた。
「どうだ、賑やかだろう?俺たちにとってこの賑わいが民が安心して暮らしている証拠でもあるんだ。俺はこの光景が好きでたまに来るんだ」
しみじみとしながら話すファグルを横目に、とあるものがある店を見つけた修はそこへ向かった。
「なにか気になるものがあったのか?」
「あぁ、俺の好きなものだ。まさかこの世界に来てもあるなんて思いもしなかったよ」
そういうと一つの赤い果物を手に取って香りを確かめた。
(あぁやっぱり、これはリンゴだ。味はわからないがここまで一致していれば味も一緒だろう)
そこにあったのは紛れもなく修の好物のリンゴであった。しかし通貨を持っていなかった修はどうしようかと悩んだが、悩んだ末横にいたファグルに視線を向けた。
「なぁ、これ一つ貰いたいんだが・・・」
「そうか、まだ通貨を持っていなかったな。俺が買ってやるよ」
そういうとファグルは小さい袋から硬貨を三枚出して店員に手渡した。
「ありがとう、いつか返す」
「気にすんなよ、当然のことをしたまでだ。もう少し市場を見たら次の場所に移動するか」
頭をポンポンと撫でられ少し照れながらファグルに尋ねた。
「わかった。この市場かなり広そうだから早めに歩いた方がいいか?」
「今日は一日散策になっても大丈夫だから急がなくてもいいぞ」
「そーそー!ファグルはいっつも根詰めて仕事してんだからたまにはゆっくりしよーぜ!」
突然現れたカルゼに驚いた修は、持っていたリンゴを落としそうになって焦った。
「おう、思ったより遅かったな。大丈夫だったか?」
「全然大丈夫!ちょっと手ごわいやつだったから手こずっただけだし!」
何やら物騒な話をしていたので聞かない方が良いかなと思ったが、またしても疎外感を感じていそうになっていた修にカルゼが声をかけた。
「安心していいぞ!ちょっと猫探してただけだから!」
(猫・・・?)
頭が?で埋まりそうな修を見て笑う二人。よく見たらカルゼの腕に引っかき傷が多数ついていた。
「・・・カルゼに治癒能力はないのか?」
「いつもは四番隊に頼んでるけど、このくらいの傷だったら放置してるかな」
それを聞いて修はカルゼの腕に手を添えて念を込めた。すると淡い光が腕を包み、一瞬で消えたかと思ったら腕の傷がなくなっていた。
「え!!まじか!!すごすぎ!!」
大きい声で驚いているカルゼを見て照れくさそうに笑う修にファグルが声をかける。
「治癒能力があることはミリューから聞いていたが、まさか自分自身以外にも出来るとは・・・」
感心したように話すファグルと興奮冷めやらぬ様子のカルゼに挟まれ、嬉しくなってなぜか泣きそうになってしまった。
「・・・今までこんな風に俺に関心を持ってくれる大人は一切いなかった・・・この世界に来ていろんな人が俺を心配してくれて、関心を持ってくれてすごい嬉しい・・・!」
泣きそうになっている修を見て二人は修の頭を撫でまわした。
「そうだな、オレたちにとって修は今一番関心を持ってて興味がある人だ。それは誇りに持っていいと思う!」
「確かに、大きい声では言えないけど修がこの世界に来てくれてよかった。前の世界で命を無駄にしなかっただけでも十分偉いのに、異世界に来ても健気に生きようとしている所はこの世界では称賛に値する。生きててくれてありがとう」
二人が思い思いに修への気持ちを口にした途端、修の目から大粒の涙がボロボロ零れ落ち、まるで幼子の様に大きな声をあげて泣き始めた。その光景をみて二人は微笑みまた修の頭を撫でまわすのだった。