出会いと運命
「はぁ...」
歩みを止め小さくため息をついた修は後ろを振り返る。掻き分けられた木の葉の道に1人分の足跡、長く歩き続けた証拠に辺りはすっかり暗くなってしまった。
「このまま森の凶暴なモンスターの餌食に...」
なるかもなと言いかけた修の目に、薄い光が差し込んできた。
(森の中に街があるのか?)
まだまだ先にある光を目指し歩き始めようとした瞬間、ガサガサと物音をたてて何かが近づいてくる。焦った修は見向きもせず、音のする方とは逆の方向へ走り出した。整備されていない森の中を全身ボロボロになりながら無心で走り抜ける修から、音を発する何かは徐々に遠ざかっていた。一体あれはなんだったのだろうかと思案を巡らせた修は、走った事で体力の消耗を感じて、街があるであろう薄い光へ少しずつ歩みを進めた。今になって枝葉で擦った傷が痛みだした。ズキズキ痛む傷を手で抑えながら、歩く速度を傷が痛まない程度にあげ、ようやく光源の街に到着した。修の身長のおよそ2.5倍はあるであろう柵の前で、2人の門番が椅子に座りながら談笑していた。
「あ、あの...」
疲労と痛みと、久しぶりの生身の人間との会話で緊張した修の発する声は小さすぎて、門番たちは気が付かなかった。気が付かれなかったと理解した修は、気づいてもらおうと1歩踏み出そうとした時、木の根元の突起に躓いてしまった。ガサガサと音を立て前のめりに倒れ込んだ修にようやく気づいた門番たちは、最初こそ警戒して槍を構えながら修ににじり寄ってきたが、修の体が傷だらけで半分意識を失いかけていると確認した途端、急いで街の中へ運び出した。
「カルゼ!けが人だ!」
門番の1人 ファグルが、相方であるカルゼに伝える。
「まだ息はあるな、直ぐに応援を呼んでミリューに治療してもらおうか」
そういうとカルゼは懐から小さな笛を出し、控えめにピュっと吹いた。カルゼの言うミリューというのはこの街唯一の医者であり、どんな病気や怪我でも最後まで治すをモットーに患者に寄り添ってくれる女性だ。
「カルゼさん、ファグルさん、何かあったんですか!?」
どこから現れたのか、カルゼとファグルよりは小柄で修と同い年か年下くらいの少年が3人やってきた。
「急用の使いを頼む。サンはじいさんの所へ行き外部から人が来たことを知らせろ、言い伝えの手のひらに紋章が出る黒髪の青年が来た、と。ロッキーとヴェイは直ぐにミリューの所へ行き、この方の治療をして貰え」
「「「ラジャ!」」」
カルゼの的確な指示のもと、3人は直ぐに行動を開始した。3人をしばらく見送った2人は仕事中であるはずだが、嬉しさのあまり笑みがこぼれてしまっていた。
「やっと来てくれたんだね...!あの方はこの街の救世主になるかな...!」
「さぁ、どうだろうな...」
興奮気味に質問するファグルを、冷静だが嬉しさもほんのりにじませながら笑うカルゼが答える。2人は街の方に目を向け、ミリューの元へ向かっているであろう修を憂いた。
「絶対に守り抜いてみせよう、あの方を」
「もちろん!あの方に安心してもらえる安全な街を目指そう!」
2人は悟っていた。修がこの世界と異なる世界から来た存在だという事を。カルゼが言っていた''外部からの人''というのは、この街の首長ベッツと警備隊長アイクスが決めた、首長と警備隊員計369人のうち14人、一部のファクシーフォーズ超上流国民しか知らない''異世界からの存在''を意味する隠語だ。もちろんここにいるカルゼとファグルも隠語を知っているためこの対応をとったのだった。
「よっ、おつかれさん!」
「お疲れ様です」
2人は声のする方へ顔を向ける。そこには交代要員のグリアとハーストがいた。
「おつかれさん、今日から一段と忙しくなりそうだから気を引き締めていこうな」
グリアとハーストは修が来たことを知っている様で、目には勇ましい光を宿していた。
「あたぼうよ!俺を誰だと...」
「前科があるから言ってんですよ。気をつけましょうね」
自信に溢れているグリアに対し、相方のハーストはグリアを冷静に抑えて諭している。
「とりあえず俺たちは交代がてら彼の元へ行ってみるか」
「そうだね!」
まもなく夜となろうと夕暮れが闇に飲み込まれていく。修の運命とこれからはどうなるのかーーー。