1-5 鬼じゃらし
俺は慌てて横に飛ぶ。
飛んできたナナを何とか回避できた。
助走なしで10メートル以上飛んだ?
まじか!?
どんだけ身体能力高いんだよ。
あんなの受けたら無傷で済まない。
俺は必死に走り、ナナから逃げる。
「ふにゃぁ」
その声に振り返ると、ナナはさっきのジャンプの着地で体勢を崩し、もたついているようだ。
その隙に、俺は、ちょっとだけモフモフ感のある、薄茶色のキャットタワーに向かった。
そういえば、なんか頭が重い。
というか、俺の格好、両腕両脚はまるまる素肌で、緑色の長い毛がたくさん生えた着ぐるみのようなものを着ている。
俺はキャットタワーの階段を登る。
階段を登りきると、そこはキャットタワーの小部屋になっていた。
真正面に出口がある。
俺はそこから出る。
出口を出る時、特に屈む必要はなく、十分に余裕があった。
普通のキャットタワーの出口が20センチぐらいだとすると、ここは2メートルぐらいか?
どうやら俺は10分の1ぐらいに縮んでいるようだ。
「待つにゃーー!」
ナナの声が小部屋から反響して聞こえる。
俺は、さらに上に行こうと、梯子を登る。
今は3階だ。
次の階に行こうと思ったが、今度は梯子がない。
猫だと楽に上に行けるが、俺は人間。
絶対に無理だ!
ナナが追いついた。
俺はキャットタワーの端に追い込まれる。
この時、キャットタワーの下に大きな卓上鏡があるのに気づいた。
そして、その鏡でようやく自分の姿がわかった。
遠目から見ると、顔と手足が出たソーセージの着ぐるみを着ているように見えるが、ソーセージではなく、緑の毛に覆われた猫じゃらしだ!!
両腕両脚がまるっと素肌……
スネ毛もあるので、キモすぎる……
しかも、俺の頭には、猫じゃらしの持ち手の一部と見られる、ゴムのような細い円柱が生えている……
緑色で50cmぐらいだろうか。
やや後ろに曲がって倒れている。
俺は猫じゃらし役?
これは鬼ごっこじゃなくて、『鬼じゃらし』か!
「もう、終わりにゃ。大人しく捕まるのにゃ」
ナナは俺に両手を広げ、ジワリジワリと俺を隅に追いやる。
俺はナナの方を向いて、後退りしたが、足を踏み外してしまった。
3階の高さから落ちる!
これは骨折を免れない!!
――ドォォンッ!
物凄い音がした。
が、俺は膝を曲げて着地に成功する。
えっ、痛くない。
まったく平気だ。
ゲームだから、問題ないのか?
ナナも上から俺に向かって飛び降りる。
マズイ、俺は慌てて逃げる。
着地したナナは、俺に真っ方向に向かってジャンプしてきた。
俺は逃げようとするが、久しぶりの運動で、足がもつれる。
結局ナナを避けられず、俺は、ナナのアメフトのようにタックルを、腰に受けた。
「ぐへぇっ」
俺は前に倒れる。
「捕まえたのにゃっ!」
そう言って、ナナはモフモフの腕で猫じゃらしをホールドする。
『ワン』
何処からか、カウントが始まる。
『トゥー』
ナナはしっかりと俺をホールドしている。
『スゥリィーーー!! ナナ、ウィィィン!!』
3カウント?
3秒間、捕まえないといけないのか?
プロレスみたいだな。
「やったにゃー! 妾の勝ちにゃーーっ!」
既に俺を離し、立ち上がっていたナナは、そう言って、クルッと一回転し、俺に向けてピースサインする。
ナナの勝利のポーズのようだ。
「まずは1勝にゃっ、次は鬼の交代にゃっ」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。ルールを教えてくれよ」
「鬼は3秒間捕まえる必要があるにゃ。逃げる方は3分間、逃げ切れば勝ちにゃ。あと5番勝負にゃ。先に3勝した方が勝ちなのにゃ」
そういや、天井付近にタイマーが見える。
これが時間制限か。
「ねえ、衣装変えていい?」
俺は低姿勢でお願いした。
このキモい猫じゃらしの格好は、率直に言って嫌だ。
「5番勝負が終わらないと変えられないのにゃ」
クソォ。
ナナが選んだな。
俺が遊んでやらなかったばかりに、猫じゃらしにされてしまった……
「次、行くにゃ」
ナナがそう言うと、俺たちは鬼ごっこ開始位置に瞬間的に移った。
ただ、前回とは位置が入れ替わっている。
『レェディー、ゴォウゥゥ!』
ナナは猛スピードでキャットタワーの方に両腕両脚で走って行った。