1-4 遊び不足
目を開けると、ネコミミ童女のナナが俺に跨って、爪を研ぐかのように、俺の胸を何度もかきむしる動作をする。
「うにゃー、御主、酷いのにゃー。また、妾を無視したにゃーーー!!!」
ナナは、俺に思いっきり顔を近づけ、瞳孔を大きくする。
「御主、立場を理解しておるのかにゃ?」
「にゃにが?」
『な』が『にゃ』になり、情けない問いかけになる。
「妾に料理を作れとか言ったのにゃ。呪いをかけられた御主は、妾の忠実な下僕であることを忘れておるのにゃ。
知っておるかにゃ? 妾は千年の時を超えて存在する怨霊なのにゃ。そして、この大和の国でもぉっとも畏怖される化け猫なのにゃ。この妾をもっと恐れ敬うのにゃっ!」
ナナは、俺の胸に当てた両手を伸ばし、顔を遠ざけ、勝ち誇った顔をする。
「そうにゃの?」
「なんにゃ、その気の抜けた返事は」
だって、まったく怖くないしな。
呪いも含めてな。
「ニャニャは可愛くて癒されるから、全然怖くにゃいよ」
「にゃ、にゃ、にゃ、にゃにを言っておるのにゃ!」
顔を赤らめ、照れるナナ。
「『お帰り』のニャーーを言ってくれたときは、ほんと癒されたよ」
「それはそのにゃ。これから一緒に住むのにゃ。妾だって、御主と仲ようやりたいのにゃ。挨拶は良い関係の基本なのにゃ。御主のためではないにゃ」
猫耳と、のじゃロリ、いや、のにゃロリに加え、ツンデレ要素もあるのか。
「そもそも、なんにゃ。ニャニャという舐めた名前を付けおって」
ナナはまだ本当の名前をわかっていないようだ。
「悲しいにゃ。昔はもっと怖くて、呪いも凄い化け猫にゃったのに……最近はのう。病気や飢餓、戦さも少のうなって、怨念も減ったからのう。妾の力も弱くなったのにゃ。それでこのありさまにゃ」
ナナは巫女服の袖を持ち、顔を左右に振って、自分が小さくなったことをアピールする。
「童女の姿は、その影響?」
「そうにゃ。でも、呪いは恐ろしいにゃ。この呪いの恐ろしさを御主はまだ知らぬのにゃ。この呪いにかかった者は口を揃えて、とぉっても恐ろしい呪いだと言うのにゃ。そして、妾の言うことをよく聞くようになるのにゃっ。御主は今日から仕事にゃっ。本当の恐ろしさを知るのは今日からにゃ」
ああ、月曜の仕事のこと、考えてなかった。
というか、考えたくなかった……
「そう落ち込むでにゃい。妾が遊んでやって、御主を励ましてやるのにゃ」
ん?
ナナが遊びたいだけじゃないの?
俺が遊んでやらなかったから?
ナナは白い尻尾を背中の後ろでピンと立てる。
「それでは行くにゃぁ!!」
そう言うと、俺とナナは、アスレチックのような所に瞬間的に飛ばされた。
いや、アスレチックではない。
巨大なキャットタワーだ!
巨大な部屋の中に巨大なキャットタワーがある!
ナナは、ヘソが出たセパレートの衣装を着て、両手両足がモフモフになっている。
異世界ファンタジーの猫獣人戦士のような格好だ。
巨大なキャットタワーの下にいる俺たちは、お互い10メートルぐらい離れている。
「今から、鬼ごっこをやるにゃっ!」
首を回し、両手をこねくり、準備運動するナナ。
「その格好は? ここはどこだ?」
「この格好は、御主の遊んでいたゲームとやらから、アイデアを貰ったのにゃ。カッコいいにゃっ」
ナナはくるりと回り、俺にその格好を見せびらかす。
「そして、この場所も御主のゲームからアイデアを貰ったのにゃっ! 今から鬼ごっこにゃっ! 妾が鬼にゃっ!」
ナナは両手を床につけ、獲物を狙うかのように体勢を低くする。
『レェディー、ゴォウ!』
何処からか開始の合図が聞こえると、ナナは物凄いジャンプをして、俺に向かって来た。