兎と龍の邂逅譚 12
「ななな、なんなんだナ、ジョヴィ⁉ あれっていったい、なんだったんだナ~⁉ 弾倉がグルグル回ってたんだナ! しかも、<鉄傀儡>とは思えないくらい威力もあったし――」
「……落ち着けアンシェク。あれはおそらく……白属性霊術だ」
「へ? 白属性~?」
「ああ、電気と磁気を司る白属性霊術……それを上手く使えば、黒属性のように物を動かす力が生まれる、という論文を読んだことがある。……もっとも、あのように回転にも使えるとは知らなかったがな……スピットめ、いったいどのような構造を作ったんだ……?」
「でもでも~、なんであんなにグルグル回す必要があったんだナ~?」
「おそらく、ああすることで複数の霊石に少しずつ、かつ均等に霊術を注入していったんだ……そしてそれを一気に解き放ったんだよ」
「だから未調律でもあんなに威力がでたんだナ~?」
「そうだ。とはいえ、口で言うのは簡単だが実際のところはとんでもない離れ業だがな……考えてもみろアーシェ、そもそも白属性で弾倉を回した上で、さらに高速で回転する各霊石にそれぞれ霊術を注入するのだぞ? 信じ難い芸当だよ」
「……う~ん。おいらじゃ絶対無理なんだナ~」
「あんな真似ができる者など滅多にいないさ。完全に、量産性や汎用性など頭にない、馬鹿げた調律思想だよ……。まったく……まったく!」
「むっふっふっふぅ……!」
「……なんだアーシェ、気味の悪い笑みを浮かべて」
「ジョヴィ~、そうは言いつつもなんだかとってもうれしそうなんだナ~、よかったんだナ~」
「な――⁉ ば、馬鹿なことを言うなアーシェ!」
「むっふっふっふぅ~ん……!」
「……もういい、行くぞ。次は僕らの番だ」
「あ~、待ってなんだナ~! ジョヴィ~⁉」
一方その頃、
「……あ~、その、なんだ」
防護壁裏へ戻ってきた<鉄傀儡>を前に、スピットは何やら妙にそわそわしていた。
ポリポリと頬を掻き、視線があちらこちらを旅している。
よく見ると、目には薄っすらと赤い跡が残っていて、手は幽かに震えていた。
――さっきまでボロボロと泣いてたのである。
「……む。勝ったぞスピット」
蝉の幼虫に似た蹲った体勢を取る<鉄傀儡>の背が割れ、中からクリーヴが出てきた。
「よ、よう……その、お疲れ……」
「うむ……。……むぅ……むぅ」
クリーヴもクリーヴで変だった。妙に深刻な顔をしてむぅむぅ唸り続けている。
「は、ははは……すごかったじゃねえか。まさかあのマーシャンを倒しちまうなんて……おどろきだぜ」
「君が改造してくれた霊石砲のおかげだ。あれは……中々にすごい物だ。俺も驚いた」
「い、いや~、んなことねえって。お前の腕が良かっただけの話さ」
「む。そんなことはないぞ。君のおかげだ」
「いやいやいや――」
とまあ、そんなまどろっこしいやり取りをしていた二人の所へ、
「はっはっは! すごいじゃねえか、クリーヴぅ! お前、強いんだなぁ!」
マーシャンが快活に笑いながらやってきた。
彼の巨躯に隠れ、セイッジもついてきている。
「ああ? なんだ、マーシャン。因縁でもつけにきたのか?」
「見損なうなスピット。ジャアトグリール家は武人の一族。強者に敬意を示すのは当然だ。それは王族・貴族・平民……身分を越えてなお、優先されるべき事柄だ」
「……そうだったな。確かに、お前さんはそういう奴だったよ。……考えてみりゃ、入学早々、平民と対等に話してくれた貴族なんざお前くらいだったもんな」
「そういうことだ………………けどそれとあと一つ、用があってな」
おい――マーシャンがまるで首根っこを掴むようにしてセイッジを前に突き出してきた。
いつもの高慢な態度はどこへやら、何故か彼は妙に気まずそうに俯いている。
「ほらセイッジ。言わなきゃいけないこと、あるだろ?」
「う、うんマーシャン……その、その………………ごめんよっ、クリーヴ!」
「む?」
「あの鳩琴壊しちゃったの、実は僕なんだ――」
「はぁああああ⁉ なんだそりゃ⁉」
思わずそう叫んだスピットに、セイッジは縮こまりながら少しずつ語る。
あの日、彼がスピットらの格納庫に忍び込み偵察を試みたこと。その最中、二人が戻ってくるのを察し急いで隠れようとしたところ、机にぶつかって鳩琴を落としてしまったこと……すべてである。
スピットが眉間をピクピク言わせながらセイッジに詰め寄った。
「じゃ、じゃあなんだ? てめえはあの時、オレとクリーヴがあんだけバチバチやってた時、まだあの格納庫に隠れてて、オレらの喧嘩を影で嘲笑ってたってことか、ああん⁉」
「笑ってなんかないやい! ……ただ、こわかったんだ。二人ともあんまりに凄い剣幕だったもんで、言い出せなかったんだ……ごめんよ、悪かったと思ってる……本当に」
「……スピット。こいつは……セイッジはガキの頃からちょっと気の小さいところがあってな。ただそれでもこういう時に嘘をつくような奴じゃあない」
「~~!」
「とはいえ大事なもんを壊しちまったのは事実だ……俺からも謝るよ、すまなかったスピット、クリーヴ」
「マ、マーシャン……!」
本音を言えば徹夜明けなのもあってまだまだ腹立たしくはあったが、それでも誇り高い血統貴族の二人が、平民相手にこうも頭を下げるのは異例である。裏を返せば、彼らが本当に申し訳ないと思っている証左であり、スピットは矛を収めることにした。
「……わーったよ。じゃあオレはもういい。それで謝罪を受け入れた……でもな、ありゃ元々クリーヴのもんだ。クリーヴが許してくれるかは知んねーぞ」
どうなんだ――スピットは隣にいた龍人種の少年に振る。
クリーヴは一度だけゆっくりと目を瞑った後、きっぱりと述べた。
「……俺も謝罪を受け入れよう」
「いいのか……⁉」
「……ああ。以前の俺なら絶対に許さなかっただろうがな……しかし今は違う。あの鳩琴と同じか――もしかしたらそれ以上に大事なものを得た」
「お前――」
「そうか……わりいな、スピット、クリーヴ。俺たちはお前らに一個、借りを作っちまった……じゃあ、もう行くよ。ほら、セイッジ」
「う、うん……ごめんね、二人とも……」
言ってマーシャンらは去って行った。
それを見届けた後、クリーヴはおもむろにスピットに向き直る。
――忘れかけていた妙な力場が戻ってきた。
スピットはなんだか妙に気恥ずかしくなり、話を逸らそうとする。
「……さ、さ~て。じゃあ後はオレらも観戦するとすっか」
「スピット」
「次はジョヴィエルとアンシェクの二人隊だからな、オレらもいつあたるか知れねえ、ちゃんと見ておこうぜ」
「スピット」
「な、なんだよ」
「その前に君に一つ訊いておきたいことがある」
二人の視線が交錯した。
「俺の友になってくれないか?」
(あちゃ~……)
スピットはガリガリと頭を毟る。
わかっていた。
どうせこう来るとはわかっていた。
どこまでも真っすぐで、飾らない。
建前など言わず、思ったことを正々堂々相手に示す。
それは黙々と背中で語ることもあれば、こうして直接に言葉にすることもある。
コイツはそういう奴なんだと、もうよくよくわかっていた。
――だから彼は言った。
こういうことを直接述べるのはどうも恥ずかしく、柄でもなかったが、それでもこう言われたらああ言おうと、彼の中であらかじめ言葉が固まっていた。
それをそのまま口にする。
「……ばーか。オレたちゃもう………………とっくにそーなんだよ」
冷たさを忘れつつあるうららかな春の風が、二人の間をそっと過ぎ去った――。
ユリア歴一一二八年、赤の月。格納庫にて。
「……やっぱ残っちまったな、継ぎ跡」
スピットはクリーヴの鳩琴を指してそう言った。
「それでいい……これもまた、思い出だ」
隣にいたクリーヴが少しだけ目を細め、薄っすらと残る継ぎ跡を優しくなぞる。
「で? お前どーよ、ちったあ上達したのか? ちょっと吹いてみろよ」
「む。わかった」
自信満々に頷き、拭き口に唇を重ねるクリーヴだったが、
"ぽぉ~、ぴぃ~、ぼぶぇ~……ぺぇええええええっ!"
やはりその演奏は"ど" をつけねばならぬほど下手くそである。
「くっくっく、お前ってほんと――――――おもしれえヤツ」
スピットは可笑しそうに目を細めた。
兎と龍の邂逅譚 了




