甲斐性なしなお節介! 05
「●●●●、●●●●、●●ァァアアアアアアアアアアッ●●ッッ! 舐めんなよ! あの寸足らずの◆◆◆◆◆◆◆・★★★★★がっ! ■■■■でしか物を考えてねえのか、ああん⁉ 頭ん中、▼▼▼▼の形した××××しか詰まってねえんじゃねえか、ああん⁉ ……ふざけやがってぇえええええ! てめえ自身を●●●●しろ! 聖なる××××が! あたしの◇◇◇に口づけしやがれ!」
まー、パーシィさんときたら。
大変口汚く罵っておられた。
完全にブチ切れ、素が出てらっしゃる。
「ハッ⁉」
ただ、彼女の中に幽かに残っていた冷静な部分が、想い人がすぐそばいるという現実を思い出させ、パーシィは金縛りの如く身を強張らせた。
「コーホー……! コーホー、コーホー……!」
しかし大丈夫だった。クリーヴは今、爛々と不気味に輝く目で謎の呼吸法に勤しんでるだけである。
――全然大丈夫じゃあなかった。
「クリーヴさん⁉ クリーヴさぁん⁉ き、気を確かに! しっかりして下さい!」
「コォオオオオ……! コォオオオオオオ……!」
「ひぃ⁉」
呼吸が変わった。今度はやたらと関節を捩じった謎の姿態を取りつつ、深く、深ーく息を吸ったり吐いたりを繰り返す。
やがて "ばぁん!" と机に拳を打ち付けると、クリーヴはさも苦し気に喘ぎながら言った。
「な、なんだ、これは……⁉ 自分で、自分が……抑えられん!」
「ク、クリーヴさん……!」
彼は全身をわなわなと震わせ、脂汗でびっしょりになりながらも、それでも必死に己と戦っていた。
……わかっている。
パーシィ・ケインゴルとて、子供ではない。
男が一度ああなったら、どれだけ辛いか知っている。
いくとこまでいかねば、収まりつかぬとも……。
もう――――――見ていられなかった。
「パーシィっ!」
クリーヴがメラメラと燃え盛った目をパーシィに向ける。
彼女は潤んだ瞳でその視線を受け止め……ただゆっくりと、頷いた。
「す、すまん……パーシィ……! 俺は……君の……君の……まで……!」
「いいんです、クリーヴさん……好きに……して貰って……私、後からうるさく言いませんから……」
「すまん……すまん……!」
罪悪感がないと言えば嘘になったが、それでもできる限りのことをしてあげようとパーシィは決意した。
(ええい、やってやらぁ!)
――さて、そうと決まれば話は早い。
彼女はあっという間に、自分からがばぁっと服をはだけさせる。
流石は行動力のある女だった。いい脱ぎっぷりである。
ちなみに、先ほどからクリーヴの帯刀する魂具が "ガタン! ガタンッ! ガタガタガッタン!" と食卓をひっきりなしに叩いていたが、二人はそれに見向きもしない。
ただただ、互いの標的を見定めるのみ。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
今や完全に一匹の獣と化したクリーヴが、獲物に襲い掛かった――!
「はぁ~まったくー。いい仕事をしましたー」
その頃、ウィンサは二人のいる休憩室から少し離れた職員通路を歩いていた。
見れば随分とホクホク顔で、何やら難しい縁談を取り纏めた仲介人のような達成感を醸し出している。
「よーやくウィンサも肩の荷がおりましたよー。まったくもー、まったくもー」
彼女はそれなりに張った胸をほっと撫で下ろす。
ちゃらけた態度とは裏腹に、ウィンサは彼女なりにパーシィのことを本気で心配していた。
だから今回も遊び半分では決してなく、このまま二人の情事を覗こうなんてまったく思ってない。むしろ逆で、耳の早い同僚たちが次から次へと押し寄せるのをひたすら追っ払う役を自ら買って出ていた。
こう見えて、意外と忠義深いヤツなのである。
「あいたっ!」
と、その時。
つい気が緩んだからか、その場で "ずるっ、びたーん!" と派手に転んでしまった。
「うー、膝擦りむいちゃいましたー……」
ぱさり。
起き上がる際、給仕服の衣嚢から妙に毒々しい桃色の紙切れが落ちる。
それは何を隠そう、あの "メラメラくん" の効能書きだ。パーシィの下へ徳利を渡しに行った際、回収していたのである。
「はー、この効能書きももう、お役御免ですかねー……よく効くのは十分わかりましたからー」
ウィンサは紙片を折り畳み、元の衣嚢に戻そうとして――、
「え……⁉」
目を疑った。
そこにいたのは己の欲望を剥き出しにした一匹の獣であった――。
「………。」
その獣、クリーヴ・エインシェドラグは物言わぬ獲物を大胆に手掴みし爪を立てる。
「………………。」
そこに荒々しく赤い舌を這わせ、噛み千切れるほどに強く噛りついた。
「………………………。」
パーシィは何も言わない。彼女の瞳は、無我夢中でいる想い人の狂態を映すだけだ。
彼はこちらのことなど一切顧みない。
ただひたすらに、己の欲望が命じるままに身体を動かすのみ――。
「パーシィ姐さん⁉」
ウィンサは取る物も取り敢えず、勢いよく休憩室の扉を開けた。
そこにいたのは、一匹の獣である。
ただし、その牙が向けられた先は――――――パーシィではない。食卓の上の料理だった。
「しっかり! しっかりして下さい、パーシィ姐さん⁉」
平時のクリーヴが見せる、全身全霊で真摯に食と向き合う姿はどこにもない。
彼は次から次へと手掴みで皿の上の料理を荒々しく平らげ、あろうことかパーシィの皿にまで躊躇いなく手を伸ばしていた。
まさに、貪り喰らう野獣の姿である。
「パーシィ姐さん⁉ パーシィ姐さんってばぁ⁉」
……あはれな光景だった。
パーシィは茫然自失の体で、そんなクリーヴの狂気じみた姿を見詰めている。
ろくすっぽ見向きもされない、がばぁっとはだけた給仕服が一層涙を誘った。
「そんな、そんな……!」
ウィンサが手にしたメラメラくんの効能書き……その末尾には細々とした字でこう書かれていた。
"但し、本製品は発情期を迎えていない方には効能を発揮しません。そのような方々には過剰な食欲増進の副作用が報告されておりますので、ご使用の際にはくれぐれもご注意下さい"、と――。
「ふふ、いいさ……いいさね……どうせ……どうせこんなオチだと思ってたよ……」
「パーシィ姐さぁあああああああああああああああああああああああああああん!」
ウィンサの絶叫が夜空に響き渡った――。
甲斐性なしなお節介! 了




