甲斐性なしなお節介! 02
ウィンサ・ゴーデハスタ。獣人種、黄倉鼠族の少女である。
身の丈は年を踏まえてもかなり小さく、その割に出るとこは結構出ていた。
語尾が間延びする独特のおっとりした口調とは裏腹に、恋愛方面への機動性は極めて高く、同じ相手とは精々二月と持てばいい方である。
疾風のように次々と男を乗り換えるその姿から、一部では "早手のウィンサ" の異名を取り、彼女の務める西食堂の姐さん方からは "要はスピットを女にしたようなヤツさね" と、ろくでもない評価を下されていた。
「……で? いったいなんの因果であたしゃあんたの部屋で正座させられてるんだい、ウィンサ……?」
「だーれが足を崩していいと言いましたかー?」
「え? あ、はい……」
「はぁ、まったくー。姐さんはー。パーシィ姐さんときたら、まったくもー」
はぁああああああ、と極めつけにとんでもなく大きい溜息を吐かれる。
これにはパーシィも内心イラっとした。
朝食後、仕事が一段落し、さて小休止でもと思ったら急に呼び出されてこれである。
やれやれ。ここはひとつ、先輩の威厳というものを示さにゃなりませんなとパーシィが意気込んでいると、
「……今日の朝食、見てましたよー? なんですかー、あのざまはー?」
「ブフォ⁉」
思わぬとこから飛び道具がきた。
「な、ななな、なんのことだい⁉ あっあ、あっあ、あたしにゃさっぱりだよっ!」
「……回りくどいのはやめてくださいよー。突っ込むこっちが恥ずかしーですよー……クリーヴさんとのことに決まってるじゃないですかー……」
「もひゃあ⁉」
「今時、毬突きして遊ぶような年頃の子でさえ、あんな無様な醜態は晒しませんよー……」
「もああ……もあああああ……!」
そうなのである。
このパーシィ・ケインゴル、困ったことにクリーヴ・エインシェドラグに惚の字だった。
色々と曲芸的な経緯を経た末、そんなことになってしまったのである。
「見てらんないですよー、まったくー……あれじゃしどろもどろを通り越して、不審者そのものですー……ウィンサ、本気で衛兵さんにつーほーしようか悩んじゃいましたー……」
「そ、そんなこと言ったって!」
「言ったってー?」
「仕方がないじゃないかっ! これ以上、どうにもならないんだから!」
……切実な訴えである。切実故に、それは最も真実に肉薄した心の叫びでもあった。
肯定的な言い方をすれば、クリーヴ・エインシェドラグは女泣かせなヤツである。
ただ、その泣かせ方が異様だ。あまりに異様だ。他に類を見ない、と言ってもいい。
理由は偏に "血" のせいだ。
彼ら龍人種は霊術に秀で、身体能力も高く、あまつさえ不老長寿でも知られた人種である。だが、その "個" としての強さに反比例して出生数は低く、数の少ない種族だ。中でもクリーヴの属する龍人種古龍族は、その傾向を強く反映した人種族で、寿命は獣人種に比して三倍近く長いが初産も応じて遅く、五〇・六〇代でようやく子をなすのがざらである。
だから。
発情期に這入るのも当然遅く、クリーヴがそれを迎えるとしたらどんなに早くともあと十数年は先である。
まどろっこしいので結論を言おう。
クリーヴ・エインシェドラグには性欲がない。故に、恋愛という概念が理解できない。
先の "女泣かせ" とは、こういう意味である。
どれだけ積極的に接近しても、それらはすべて暖簾に腕押し、糠に釘。後に残るは砕け散った女子たちの死屍累々の山だ。
ひどい時には、まるで秘境の奥地に生息する得体の知れぬ野生動物のような目をして、
『交尾をする……? つがいになる訳でも、子をもうける訳でもなしにか……? いったいなんのために?』
とか言い出しやがるので堪らない。
それらを一切合切承知の上で惚れたというのだから、このパーシィという娘の業も深かった。
「いいんだよ、あたしゃこれで……あたしはただ、あの人のそばにいられればそれで幸せなのさ……」
遠い目をしながら、そんなことをぬかしやがる。
それを見て、"イヨォ~ッ!" と役者が見得を切るように怒髪天を衝く様相となったのがウィンサだ。赤い隈取すら浮き出てきそうなほど怒り狂ってる。
「若い娘の身空で、なーにをふざけたことぬかしやがるんですかー⁉」
「んなこと言ったってねぇ……どうしようもないじゃないか。あんたにも以前、事情はよくよく言って聞かせたろ?」
パーシィは、前にもこういう話をこの小生意気な後輩にしたことがあった。
煩悩の塊のようなウィンサにしてみればその話はほとんど怪奇譚に近く、ひたすら震えて慄いていたのを覚えている。
だが。
今日のウィンサは一味違った。彼女はまるで、"その言葉を待っていた" とでも言いたげにニヤリと笑い、何やらごそごそと自室内を探し回る。
……にしても散らかった部屋である。服やら化粧品やらでごちゃごちゃだ。足の踏み場にも困る有様である。ここは職員用宿舎の二人部屋なので、今は留守にしている同室の子が気の毒だった。
「はいパーシィ姐さん、これー!」
ややあって、お目当ての "何か" を見つけたウィンサが晴れやかな顔で手渡してくる。
瓶詰の香水……いや、薬品だろうか? 何やら高そうな桐箱に這入っている。
半開きとなった桐箱の蓋にはこう書かれていた。
"夜の王者! メラメラくん参号!"
「来ないなら、来させてみよう、発情期……ですー」
ウィンサは。
さも楽し気に邪悪な笑みを浮かべた。




