甲斐性なしなお節介! 01
短編 甲斐性なしなお節介!
獣人種袋鼠族の娘、パーシィ・ケインゴル。
クリクリとした大きな目の下にそばかすを浮かべた少女である。
国が傾くほどの美人……では到底ないが、さりとてうらぶれた村なら一つか二つ落とせそうな程度には容姿が整っている。
例えるなら、"おらが村一番の娘っ子!"。地元では負け知らずなものの都会ではちょっと分が悪い、といった塩梅だ。
なので彼女が給仕として勤めるここグランレーファ総合霊術学院でも、パーシィは男連中の視線を独り占め……にはまったくならぬものの、それでも通りすがる者のいくらかに "お、いいね" と二度見させるくらいには人気があった。
ただ同時に、守りが堅いのでもよく知られていて、去年だけで振った男の数は片手で収まらない。"鉄壁のパーシィ" の異名を取るほどだ。一部のアレな男子どもからは、そこがまた善哉と好評を博している。
奥手でいじらしいか弱なあの子……いずれにせよ、パーシィに対する男子たちの見解はおおよそそんなところだった。
つまりこういうことである。
――男連中はなーんにもわかっちゃあいない。節穴もいいとこの伽藍洞の目だ。
敢えて言おう。それらはすべてパーシィ・ケインゴルの表の顔に過ぎないと。
奥手? 単にひと昔前、ろくでもない男に騙され用心深くなってるだけである。
いじらしい? 馬鹿言っちゃあいけない。毎夜毎夜、林檎酒片手に炙った寿留女をくちゃくちゃ言わせ、俗語塗れの悪態を吐くその姿は、完全に量産体制の整ったオヤジそのものである。
か弱い? ご冗談を! 一言でいうなら彼女は "やべー奴" である。実家は地方で名の通った傭兵団、パーシィはそこの腕利きが束になっても敵わぬほどの猛者だ。徒手空拳ではおよそ常勝無敗、学院はおろか王都ギャランまで含めても、彼女と渡り合える者はごく一握りだろう。
そんなやべー奴が、今日もこうして西食堂をしゃなりしゃなりと歩き給仕の責務を果たしているのだから、人生とはあにはからんや、わからぬものである。
さて。
では、そんな彼女の働きっぷりがどうかというと……流石は今年で就労四年目、そろそろ中堅どころと評して差し支えない水準だ。
パーシィの勤める西食堂 "鬼灯の黄昏" は、魚人種の国、アネディオーシャ都市同盟出身の板長の方針で、かなり特殊な配膳方法を取っている。
具体的には給仕が手押し車で料理を運び、各々の食卓で直接盛り付けを行うという様式だ。素材の味を活かすことに心血を注ぐ魚人料理は、伝統ある多種多様な見立てや季節感の取り入れなど、盛り付けにも力点を置いており、本来なら専属の職人の配置が常道である。しかし、一度に大勢の学生・職員が押し掛ける学院食堂という性質上、それではどうしても人材・作業空間共に追いつかず、結果としてこのような形に帰着したのだ。
そのため、西食堂の給仕たちは配属直後の研修期間中、昼夜を問わず必死に盛り付けを学ばねばならない。現場に出た後も気が抜けず、不手際を起こそうものなら大目玉。また、板長が新作を出す度、新たに勉強し修得せねばならぬので大変だ。
そういった中でパーシィは、危なげなくテキパキと盛り付けをこなし、時に利用者から料理の由来や食材の生産地を尋ねられても、つつがなくスラスラと応対できているのだから、大したものである。
今もまた一つ、粛々と配膳を終え、さあ次の食卓へ向かおうかとしたところで――。
異変が起きた。
唐突にギクシャクと、まるで油の切れた絡繰人形の如くぎこちない動きになる。
それだけではない。顔つきはもっと悲惨なことになっていた。
引き締まったと思いきや、急ににへぇっと不気味に笑いだしたりで……不審者呼ばわりされても反論できぬ有様である。
そのままガクガクとした動きで、不審者微笑みを出したり引っ込めたりしながら歩を進めた。
どこへ?
クリーヴ・エインシェドラグの座る食卓へ、である。
まだかなり距離があるのに、ヤツの方もヤツで目敏くパーシィに気づいたらしく、小刻みに尾を振り始めた。
到着。そして軽く会釈。流石にあのだらしない微笑みはどうにか引っ込めたようだ。パーシィの表情は硬めではあるものの、どうにか一般人として及第点に戻っている。
だが。
あちらを立てればこちらが立たぬ。そうして無理矢理に引っ込めたアレな部分は、すぐに別のところで表出した。
「おっお、おっお、おはよよよよよようございまっず、クリ、クリ、クリーィヒヒィヴざん」
これである。
おそらく本人的には "おはようございます、クリーヴさん……" とでも言ってるつもりだ。
「ああ。おはよう、パーシィ……」
「きょっきょ、きょっきょ、きょほうもいっひ、いっひ、いひ天気、でずっね」(今日もいい天気ですね……)
外は数年に一度水準の春の嵐真っ只中である。
返す返すもアレな奴だった。
だがアレ具合ではクリーヴも決して引けを取らない。
「ああ、まったくだ……」
無表情なので分かり辛いが、それでもどこか、ぽぉっとした表情で見詰めている。
どこを?
パーシィ……では勿論ない。彼女が手にした本日の料理、筍と若布の炊き込みご飯をだ。
会話が成立しないのも道理である。
ちなみにクリーヴの真向かいには、どういう訳か、青い顔をしてガクブルと震え俯くスピットがいた。
……何か深ーい心的外傷でもあるのだろう。
そんなこんなで、パーシィはそのまま二言三言ぎこちない会話をしつつも、クリーヴの茶碗にひと際多めに炊き込みご飯をよそうと、やがては渡り鳥の如く次の食卓へと移っていった。
「………。………………。………………………はふぅ」
途中、振り返りクリーヴを見遣る。
いつも通り、全身全霊で真摯に食と向き合っていた。
まるで "人生の真理に触れた!" とでも言わんばかりの厳かな顔つきである。
難解な抒情詩を携え図書塔にでもいるならともかく、箸と茶碗を手に食堂でそんな顔をされても、傍から見たら一周通り越して馬鹿そのものの絵である。
――だがそれでも。
恋は盲目とはよく言ったもので、そんなクリーヴを見詰めるパーシィの頬は、ほんのりと桜色に染まるのだった。
周囲にはどことなく、"いいんです、これがあたしの幸せなんですから……" 的な独特の趣が漂ってる気がしなくもない。
そんなパーシィを遠巻きに見ていた獣人種黄倉鼠族の少女、ウィンサ・ゴーデハスタが思わず言った。
蕁麻疹の如く、全身をボリボリと掻き毟りながら、辛抱たまらず言った。
「~っ、乙女か!」




