人騒がせな空騒ぎ! 01
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短編 人騒がせな空騒ぎ!
「う……」
クリーヴ・エインシェドラグは龍人種である。
龍人種。其はこの蒼の大地ファンタズマブルにおいて、獣人種の如く尾を持ち、鳥人種同様に硬き殻の卵で次代に命を紡ぎ、手足の一部は虫人種にも似た甲殻で覆われ、手甲や頬に魚人種と等しき鱗を持つ、極めて稀有な人種である。
四大人種の特徴を広く兼ね備えたその姿は、古来より "交じりし血を持つ者" や "調停者" として、一部の人種族から敬いと畏怖の念を集めてきた。
「うう……っ」
それだけではない。クリーヴ・エインシェドラグは戦場育ちの元・少年兵である。
先の大戦、スレネティ戦争の戦禍に巻き込まれ、やがては自らの意志でその渦中に飛び込んだ。
齢一七にして、辿った人生の大半は霊石砲飛び交う戦場の記憶で占められており、立ちはだかる敵には血でもって応える修羅の道を歩んできた。
いうなれば歴戦の勇士、一騎当千の強者。
それが彼、クリーヴ・エインシェドラグなのである。
「ううう――!」
で。
そんな一角の猛者たるお強ーいクリーヴ殿が、今どーしているかというと……
「うぉおおおおおお……!」
悶えていた。否、それだけではない。悶え苦しんでいた。
どこで?
彼の自室、その寝台の上のことである。
額からは脂汗がダラダラ、顔は真っ青、腹を抱えて寝台の上でのたうち回っている。
……哀れな光景だった。題するなら、"芋虫の絶命" といったところか。
彼は今夜だけで両手の指では折り足りぬほど、厠と自室を行き来している。
ほとんど厠の原住民みたいなものだった。
「じゃーからやめとけとゆったんじゃ……拾い食いなぞ」
寝台から少し離れた椅子に腰かけた少女が呆れ顔で呟いた。
少女。
白い肌、黒い髪、蒼い瞳……しかし、如何なる人種族とも一致せぬ風変わりな容貌の少女である。
名はサフィア。つい先日、クリーヴが名づけたそれである。
二人は合縁奇縁を経た末、こうして奇妙な共同生活を送っているのだった。
「おい、聞いとるのかクリーヴよ」
「き、きいている……っ」
「儂、止めたよな? 落ちてる物なんぞ食べるでないと。拾い食いなぞするでないと。人として恥ずかしくないのかと。散々に」
蒼い眼差しは中々に冷え込んでいる。さながら路傍のゴミに一瞥をくれてやるような目だ。
だがクリーヴはそれでもめげず、焼けた鉄板に放られた蚯蚓のようにのたうちながら(みじめな絵である)、クワッと赤い瞳をサフィアに向けた。
「だ、だが! もったいないではないか! まだ食べれただろうに!」
「食べれとらんじゃろーが。だからおぬし今、そうして苦しんでいるんじゃろーが。反省せい、猛省せい、このうつけ者め」
「むぅ……むぅ……っ!」
反論の言葉が尽きたか、それとも尽きたのは気力か、クリーヴは悔しそうに歯噛みする。
ちなみにサフィアの指摘した "拾い食い" とは今日の夕食後の出来事である。ここグランレーファ総合霊術学院の西食堂、"鬼灯の黄昏" で夕食を終え、自室へと戻ろうとした際、通路の隅にポツンと落ちていた鬼木天蓼を目敏く見つけたクリーヴは、なんと躊躇いもなくその場でそれを食したのだった。
「きっとあの鬼木天蓼が傷んどったんじゃろ。じゃから捨てられとったんじゃ」
「そんなことなかったぞ……⁉ ほんの少しだけ妙な雑味を感じたが、それ以外は普通に美味しくいただけた……! 旬らしい、粋な酸味だった……!」
「でなければ単に食べ過ぎじゃろ。おぬし知らんのか? "過ぎたるは猶及ばざるが如し" という言葉を」
「しかし、俺の腹は丈夫だ……! 多少のことではびくともせん……! だというのに……むぅ、不思議だ………………うう⁉」
突如クリーヴが寝台から跳ね起きる。
そのまま烈風の如き迅速さで扉を開け部屋の外へ。
行先は言うまでもない。間違いなく厠だろう。
「儂、よかったのかのう……? あんな阿呆と契約して、ほんとによかったのかのう……?」
サフィアが何やら妙に切ない溜息を吐いた。
なんだか初めて倦怠期を迎えた女子のようなそれである。
――結局その後、クリーヴは一晩まるまる苦しんだ。




