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幻蒼物語 ~ファンタズマブル~  作者: K. Soma
第一部 無限の断絶

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結晶少女 61

「……む?」

 

 クリーヴは薄暗い部屋の中、目を覚ました。

 

 部屋。辛うじてそう呼べる程度の荒廃具合である。壁に穴が開き、天井の一部は崩れ落ちていた。

 

 それ以上に特筆するべきことがある。

 

 何故か部屋の片隅で、もああ、もああ、と頭を抱え叫ぶ珍妙な生き物がいた。

 

「……パーシィ?」

 

 ヤツである。

 

「ハッ⁉ ク、ククク、クリーヴさん⁉ よかった、目を覚ましたのですね⁉ 助かりました! 不埒(ふらち)な過ちを犯さずに済みました!」

 

「……そうか。よくわからんが、とにかく君が無事でよかった。スピットとジョヴィエルは?」

 

「はい……! お二人も無事ですよ……! あの後、アンシェクさんが霊機兵で駆けつけて、助けてくれたんです!」

 

「そうか、アンシェクが……本当に、ここぞという時に頼りになる」

 

「それで、皆で急いでこの廃村まで戻ってきたら、クリーヴさんの機体が倒れてて……スピットさんなんて早とちりして泣き叫びながら取り乱してましたよ?」

 

「アイツがか?」

 

「はい」

 

「むぅ……俺の前ではそんな素振り見せたこともないが……」

 

「ふふふ、そりゃだって、男の子ですもの――って、ああクリーヴさん! まだ立っちゃダメですって! 安静にしてて下さい!」

 

「いや、大丈夫だ。もう動ける」

 

 実際、クリーヴはかなり回復していた。寝ている間に最低限の霊子を取り込めたようである。

 

「そうですか、ならいいのですが……あ、そうだ! それとイダルティ先生もちゃんと無事でしたよ! 安心して下さい!」

 

「教官殿が……? あの損傷で……?」

 

 オニクスの攻撃はイダルティの<鉄傀儡>(てつくぐつ)の使役室を直撃したはずだが……。

 

「ええ、運良く紙一重で済んだみたいです。その後はずっと気を失っていたようで……」

 

「そうか……何にせよ、よかった。スピットたちはどこにいる?」

 

「一旦、救援の要請や医療物資を取りに学院へ戻りました。あと馬車が壊されちゃったから、クリーヴさんを運ぶのに別のを借りて来るって」

 

「なるほど。よくわかった。ありがとう」

 

「そんな、とんでもない! 御礼を言うのはこちらです! またしても助けて頂いて……本当に、ありがとうございました……」

 

「自分の意志でしたことだ。気にしないでくれ……む。それよりパーシィ、外へ出ないか?」

 

「ええ、そうしましょう! ……でも、くれぐれも無理しないで下さいよ? あちこち怪我だらけなんですからね? 気分が悪くなったら、すぐに言って下さい」

 

「世話をかける」

 

 クリーヴは部屋の扉に手をかけた。

 

 そういえばここはどこなのだろう。あの廃村には違いないが、こうして一応は建物としての体裁を保っているとなると――

 

「む」

 

 扉を開けると、そこに石像が立っていた。

 

 少女の石像である。埃が積り、苔むし、輪郭が崩れている箇所もあったが……それは確かに少女の石像だった。

 

 尾と体毛がない。翼腕(よくわん)もない。甲殻がない。鱗や(ひれ)もない。

 

 にもかかわらず、"人" としかいいようのない少女の石像。

 

「これは……?」

 

「あ、これですか? 多分、ユリア様の石像じゃないですかね? ここ、"聖樹教" の教院みたいですし」

 

「よく知らんのだが…… "聖樹教" の施設に、ユリア像があるのか?」

 

「それは、その……ざっくり言うと、"聖樹教" って結構いい加減なとこがあるんですよ」

 

「というと?」

 

「うちは祖母の代まで "聖樹教" だったので、大分昔に祖母から聞いた話なんですが――」

 

「うむ」

 

「まず、"ユリアの導き" だとパエスフォロア聖領の使徒様が代々お決めになられた様々な戒律があって、基本的には()()()()()()が正しい信仰とされてるんです。例えば中には偶像崇拝を禁ずるっていうのがあって、こんな感じにユリア様のお姿を形に残すのは不敬とされているんですね」

 

「なるほど。だから逆に、その石像があるここは必然的に "聖樹教" ということか」

 

「ええ。でもそれだけじゃなくって、"聖樹教" っていうのは大昔、本当の本当の一番最初に、輝く樹ピシムスが人に与えた知恵……衛生観念とか倫理とか文化だったりさえ守れば、あとは自由にって感じなんです。だから国どころか、下手したら少し地域が違うだけで、同じ "聖樹教" でも信仰の在り方が違うっていうのはよくある話なんですよ。ガディア国なんかは大昔の、一番古い聖樹の教えを厳密に守ろう、っていう話らしいですけど」

 

「むぅ……それで中にはこのようにユリアを(まつ)る "聖樹教" もある、ということか……」

 

「そういうことだと思います。だからこのユリア様のお姿も、あくまでここの人たちが昔、独自に(かたど)ったはずのもので、地域によっては全然違う像もあるはずですよ。うちの村にあった教院だと、ユリア様じゃなくって聖樹の像があったって祖母から聞いたことあります」

 

「そうか……」

 

 クリーヴは石像を見る。

 

 そして思い出した。

 

 結晶少女と真の契約を果たした際、視たものを。

 

 知った過去を。

 

 あれはおそらく――

 

「うーん、それにしても。この石像、よくできてますねぇ……」

 

「どういうことだ?」

 

「だってそうじゃないですか。私たち人は、すべてピシムスから生まれたんですよ? となると、その御心であるユリア様のお姿は、()()()()()()()()()()()と思うんです」

 

「!」

 

「だからこそ、こうして獣人種・鳥人種でもなく、魚人種・虫人種でもなく、龍人種でもない……それでも、"()" ()()()()()()()っていうユリア様のお姿は、なんだか説得力があるなあって」

 

「なるほど……」

 

「あはは、もしこの石像が明らかに特定の人種を思わせるものだったら、多分パエスフォロアの人たちが烈火の如く怒りますよー………………あ、見て下さいクリーヴさん! スピットさんたち、戻って来ましたよ!」

 

 教院を出ると、遠くにうーの姿が見えた。背にはスピットとジョヴィエル、アンシェクが(またが)り、手を振っている。パーシィは馬車の方へ駆け寄った。

 

 もう夜明けが近い。東の空が(しら)み始めている。

 

 クリーヴはおもむろに魂具を抜いた。

 

「むぅ……おい、いるのだろう」

 

『なんじゃ……』

 

 結晶少女の声が思考に響く。

 

 どこよりも近く、誰よりも近しいその場所で。

 

「まだ礼を言ってなかったと思ってな。あの時、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 決着の間際、クリーヴは己の命を燃やし尽くし、体内の全霊子を蒼気に変換しようとした。

 

 だがそれは未遂に終わる。

 

 結晶少女。()()()()()()()()()()()()()、己の身を削り、一部を代替してくれたのである。

 

『……ゆっとくがの。すんごいすんごいしんどかったんじゃぞ? おぬしらと違い、肉の身体を持たぬ(わし)じゃ。存在が消え去るかと思ったわい……』

 

「またお前に助けられたな……ありがとう」

 

『ふん』

 

「……なあ、さっきの石像のことなんだが」

 

『よせ。それ以上は言うでない』

 

「……わかった。なら聞かない」

 

 少女がそれを望むなら、そうすべきだろう。

 

 誰にでも話したくない過去がある。

 

 自分とてそうだ。

 

「では別のことを聞かせてくれ。これから先、俺はお前のことをなんと呼べばいい?」

 

『そ、それは――』

 

「長い付き合いになるのだ。名前を呼べんでは不便だろう」

 

『じゃ、じゃが……しかし……』

 

 結晶少女が何かを逡巡し、考えを張り巡らす。

 

 名などない、とうの昔に捨てた――彼女は前にそう言っていた。

 

 その思いは変わらぬのだろう。今のクリーヴには、それが自分のことのようにわかった。

 

 だから彼は言った。

 

「……()()()()

 

『は、はあ?』

 

「名乗る名前がないなら俺がつけてやろう。サフィア。幻蒼石とも呼ばれる砂漠の宝石だ。お前の蒼い瞳によく合う名だと思うが……どうだろう?」

 

『……じゃろ』

 

「なんだ?」

 

『そんなこと訊かずともわかるじゃろ、と言ったんじゃ』

 

「む。それもそうだな。ではこれからよろしく頼む、サフィア」

 

『うん………………クリーヴ』

 

 夜が明け、温かい日の光が二人を優しく包み込んだ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少々時間が(さかのぼ)る。

 

 クリーヴとオニクスの戦いが決着を迎え、間もない頃だ。

 

 少し離れた場所で沈黙していた霊機兵、<鉄傀儡>に動きがあった。

 

 背が二つに割れ、中からイダルティが出てくる。

 

 彼女は剃刀(レイザ)状の魂具を手にしていた。柄の少し上に深い紅みを帯びた薔薇輝石(ロードナイト)の魂石が埋め込まれている。

 

 夜が明けぬ暗闇の中、彼女は魂石を額にあて、少女のように微笑み語り掛けた。

 

「……はい。ええ、そうです。すべてはお父さまの読み通りです」

 

「……オニクスは我々を裏切りました」

 

「……そして今、ユリアはクリーヴ・エインシェドラグと共にあります」

 

 

 

 第一話 結晶少女 了

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