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幻蒼物語 ~ファンタズマブル~  作者: K. Soma
第一部 無限の断絶

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54/83

結晶少女 53

 クリーヴは躊躇(ちゅうちょ)なくオニクスの<鉄傀儡>(てつくぐつ)、その使役室を狙い刺突した。蒼気を纏った騎槍(ランス)は難無く<鉄傀儡>の装甲を貫き、魔物の死肉を刺し……そこで止まる。

 

 胸板の半分にも届かない位置、そこでピタリと()()()()()

 

「っ!」

 

 クリーヴは後方へ跳躍。同時に霊石砲で緑属性霊術を放った。剃刀(かみそり)の如く鋭き圧縮空気の刃。それらは<鉄傀儡>の肩部装甲間、関節部に直撃し、ズタズタに切り裂く。

 

「スピット、ジョヴィエルを頼むっ」

 

「あ、ああ……! そりゃ勿論だけどよ……いったいなんだよ⁉ 何が起きてんだ⁉ ワケわかんねーよ!」

 

「俺にもわからんっ」

 

<白鋼>(しらはがね)が片腕で抱えていたジョヴィエルをスピットに渡した。うーの広い背を覆う(くら)だけあって余裕はある。スピットは彼をパーシィの隣に縄で括った。ジョヴィエルはやや弱いが息をしている。命に別条はなく、意識を失っているだけのようだ。

 

(だがイダルティ教官殿は……)

 

 胸の中心、使役室を直撃。<鉄傀儡>は屈強(タフ)な機体だが、あの状況で生存か否かは良くて十に一つ。先ほどからピクリとも動かない様子から見て、最悪の結末と想像せざるを得ない。

 

 すぐにでも確認・救助に向かいたいが……できない。

 

 彼女の機体のそばで、両腕を損傷した<鉄傀儡>からオニクスが出てきた。

 

「へへえ? なんだそれ、まだ生きてたか」

 

 ジョヴィエルのことだろう。オニクスの黄金(こがね)色の瞳はそちらを見ていた。

 

「人に核を植え付けりゃ少しは使い物になると思ったが……クックック、やっぱ偉大なる親父殿みたいにゃうまくいかねーか……そもそも手順が違うもんなー……」

 

 オニクスはおかしそうに身を揺する。その振動は徐々に大きくなり、やがてゲラゲラと哄笑(こうしょう)しだした。

 

 その間にクリーヴがスピットへ告げる。

 

「……逃げろスピット」

 

「な、何言ってんだ⁉ んなことできるはず――」

 

「……頼む」

 

「~~っ!」

 

 それ以上の言葉は不要だった。スピットは自分がこの場に留まっても力不足だとわかっている。

 

 できることはない。

 

 何より、()()()()()()()()()()。彼がどんな思いでそう言ったか、わからぬスピットではなかった。

 

 スピットはうーの手綱を取り、パーシィとジョヴィエルを乗せたまま脇目も振らず後退する。

 

「おお、逃げろ逃げろ。追いかけっこだぁ」

 

 オニクスはそれを見逃さない。ニヤリと禍々しい笑みを浮かべ、懐から肉厚の小刀(ナイフ)を取り出した。小刀の(つば)には……赤と橙が絡みつくように交じり合った色、紅玉髄(カーネリアン)の魂石。

 

 魂具である。

 

 オニクスは魂具で己の手をスパッと切り、赤き鮮血を土に撒いた。

 

 すると土がうぞうぞと蠢き……()()()()()()()()

 

「させるかっ」

 

 敵の思惑を理解したクリーヴが霊石砲を放った。通常の黄属性霊術、長く鋭く爆発的に伸長させた鉄針である。それで充分だった。現れた黒き肉塊は人よりも小さく、影術に覆われていない。一瞬で貫かれた。

 

 問題は数である。小さき肉塊は瞬く間に増えた。数十体はいる。クリーヴは連続して霊石砲を放つが……仕留めきれない。取り逃がした肉塊は獣の四肢を得て、スピットの後を追った。

 

「うーむ。やっぱ核がねえとこんなもんか。それに数を増やせば質が落ちる……人と一緒だ、悩ましいねえ」

 

 追いかけるか……? いや駄目だ。この男を野放しにできない。その方が遥かに危険である。

 

「なに……⁉」

 

 先に動いたのはオニクスだ。彼は脈絡なく、血に濡れた魂具を()()()()()()()()()()()()

 

 直後、傷口から濁流の如く黒い霧が吹き出した。霧は濃度を上げ無数の帯状となり、オニクスを中心に渦巻く。

 

『――いかん! ()()を許してはならぬ!』

 

 思考に響く結晶少女の声、クリーヴは既に行動していた。

 

 出し惜しみすべきではない。現時点で出せる最大火力。霊石を蒼気に変換して……放つ!

 

 騎槍から生じる蒼き光の奔流。

 

『馬鹿な⁉ あれは、あれは……!』

 

 だが、蒼光は塞き止められた。

 

 巨大な手。間違っても人のそれではない。霊機兵と変わらぬ大きさだ。

 

 しかし、決して霊機兵ではない。ありえない。装甲を纏わず、分厚い皮膚と体毛だけに覆われている。

 

 その(てのひら)。蒼気はそこから先を貫けず、弾かれた水のように散っていた。

 

 やがて蒼き光が止まる。オニクスを包む黒き帯も消失した。

 

 後に残るはいつぞやの肉人形と同じく獣の四肢を得たオニクス。

 

 異形と化したオニクスだ。上半身は人のそれと似ている。ただし、隈なく灰褐色の体毛と(まだら)な黒模様に覆われていた。如何(いか)な獣人種とはいえ、人ならば体毛は一部にしかない。また、口は頬骨付近から狼の如く突き出し、太く白い牙が剥き出し。

 

 まるで人が獣……否、それを基とした()()()()()()()かのようである。

 

『馬鹿な……【プロトタイプ・ワプムス】……()()()()()?』

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