結晶少女 53
クリーヴは躊躇なくオニクスの<鉄傀儡>、その使役室を狙い刺突した。蒼気を纏った騎槍は難無く<鉄傀儡>の装甲を貫き、魔物の死肉を刺し……そこで止まる。
胸板の半分にも届かない位置、そこでピタリと止められた。
「っ!」
クリーヴは後方へ跳躍。同時に霊石砲で緑属性霊術を放った。剃刀の如く鋭き圧縮空気の刃。それらは<鉄傀儡>の肩部装甲間、関節部に直撃し、ズタズタに切り裂く。
「スピット、ジョヴィエルを頼むっ」
「あ、ああ……! そりゃ勿論だけどよ……いったいなんだよ⁉ 何が起きてんだ⁉ ワケわかんねーよ!」
「俺にもわからんっ」
<白鋼>が片腕で抱えていたジョヴィエルをスピットに渡した。うーの広い背を覆う鞍だけあって余裕はある。スピットは彼をパーシィの隣に縄で括った。ジョヴィエルはやや弱いが息をしている。命に別条はなく、意識を失っているだけのようだ。
(だがイダルティ教官殿は……)
胸の中心、使役室を直撃。<鉄傀儡>は屈強な機体だが、あの状況で生存か否かは良くて十に一つ。先ほどからピクリとも動かない様子から見て、最悪の結末と想像せざるを得ない。
すぐにでも確認・救助に向かいたいが……できない。
彼女の機体のそばで、両腕を損傷した<鉄傀儡>からオニクスが出てきた。
「へへえ? なんだそれ、まだ生きてたか」
ジョヴィエルのことだろう。オニクスの黄金色の瞳はそちらを見ていた。
「人に核を植え付けりゃ少しは使い物になると思ったが……クックック、やっぱ偉大なる親父殿みたいにゃうまくいかねーか……そもそも手順が違うもんなー……」
オニクスはおかしそうに身を揺する。その振動は徐々に大きくなり、やがてゲラゲラと哄笑しだした。
その間にクリーヴがスピットへ告げる。
「……逃げろスピット」
「な、何言ってんだ⁉ んなことできるはず――」
「……頼む」
「~~っ!」
それ以上の言葉は不要だった。スピットは自分がこの場に留まっても力不足だとわかっている。
できることはない。
何より、友がそれを望んでいる。彼がどんな思いでそう言ったか、わからぬスピットではなかった。
スピットはうーの手綱を取り、パーシィとジョヴィエルを乗せたまま脇目も振らず後退する。
「おお、逃げろ逃げろ。追いかけっこだぁ」
オニクスはそれを見逃さない。ニヤリと禍々しい笑みを浮かべ、懐から肉厚の小刀を取り出した。小刀の鍔には……赤と橙が絡みつくように交じり合った色、紅玉髄の魂石。
魂具である。
オニクスは魂具で己の手をスパッと切り、赤き鮮血を土に撒いた。
すると土がうぞうぞと蠢き……黒き肉塊へ変わる。
「させるかっ」
敵の思惑を理解したクリーヴが霊石砲を放った。通常の黄属性霊術、長く鋭く爆発的に伸長させた鉄針である。それで充分だった。現れた黒き肉塊は人よりも小さく、影術に覆われていない。一瞬で貫かれた。
問題は数である。小さき肉塊は瞬く間に増えた。数十体はいる。クリーヴは連続して霊石砲を放つが……仕留めきれない。取り逃がした肉塊は獣の四肢を得て、スピットの後を追った。
「うーむ。やっぱ核がねえとこんなもんか。それに数を増やせば質が落ちる……人と一緒だ、悩ましいねえ」
追いかけるか……? いや駄目だ。この男を野放しにできない。その方が遥かに危険である。
「なに……⁉」
先に動いたのはオニクスだ。彼は脈絡なく、血に濡れた魂具を己の胸に深々と突き立てる。
直後、傷口から濁流の如く黒い霧が吹き出した。霧は濃度を上げ無数の帯状となり、オニクスを中心に渦巻く。
『――いかん! あれを許してはならぬ!』
思考に響く結晶少女の声、クリーヴは既に行動していた。
出し惜しみすべきではない。現時点で出せる最大火力。霊石を蒼気に変換して……放つ!
騎槍から生じる蒼き光の奔流。
『馬鹿な⁉ あれは、あれは……!』
だが、蒼光は塞き止められた。
巨大な手。間違っても人のそれではない。霊機兵と変わらぬ大きさだ。
しかし、決して霊機兵ではない。ありえない。装甲を纏わず、分厚い皮膚と体毛だけに覆われている。
その掌。蒼気はそこから先を貫けず、弾かれた水のように散っていた。
やがて蒼き光が止まる。オニクスを包む黒き帯も消失した。
後に残るはいつぞやの肉人形と同じく獣の四肢を得たオニクス。
異形と化したオニクスだ。上半身は人のそれと似ている。ただし、隈なく灰褐色の体毛と斑な黒模様に覆われていた。如何な獣人種とはいえ、人ならば体毛は一部にしかない。また、口は頬骨付近から狼の如く突き出し、太く白い牙が剥き出し。
まるで人が獣……否、それを基とした魔物へと化したかのようである。
『馬鹿な……【プロトタイプ・ワプムス】……魔人じゃと?』




