表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻蒼物語 ~ファンタズマブル~  作者: K. Soma
第一部 無限の断絶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/83

結晶少女 48

 その後もジョヴィエルの行方は知れず。

 

 ひとまずアンシェクが王都に向かい、それでも消息が掴めなければ、有志で捜索隊を組み、近隣の森やその他の危険地域を探す運びとなった。

 

 クリーヴもジョヴィエルの安否が気にかかったが、現段階でできることはない。アンシェクの報告を待つしかなかった。彼が学院へ戻るのは早くとも今日の夜。

 

 それまではいつも通り過ごすしかない。

 

 ……やがて日が沈み、夕方となった。

 

『おい、どこへ向かっとるんじゃ? こっちは食堂でなく寮じゃろう』

 

「いや、今日はこれでいいのだ。食堂にはいかん」

 

『はあ?』

 

 結晶少女にとって、それは信じ難い発言だった。

 

 あのクリーヴが。夕食時に。食堂以外の場所へ行くと。

 

 これを衝撃と言わずに何とすればよいだろう。

 

 明日から太陽は西から昇り東に沈みますよ、と言われたくらいの衝撃だった。

 

『だ、大丈夫かおぬし……⁉ 頭でも打ったか……それともまさか空腹で狂ったか……⁉ まだ昼食から二刻ばかりしか経ってなかろうに……』

 

「お前は俺のことをなんだと思ってるんだ……?」

 

「――あ、来た来た。おーい、クリーヴさーん!」

 

「む」

 

 寮の入口にウィンサがいた。彼女はとことこと小さな歩幅で駆け寄って来る。

 

「ばっちし、準備しときましたよー。荷物も確かにお届けしましたー」

 

「そうか、ありがとう……しかし、君がやってくれたのか? 頼んだのはパーシィにだったが……」

 

「あはは、無理ですってー。パーシィ姐さん、今こわれてますからー。クリーヴさんの部屋なんか入ったら、失神しちゃいますよー。……あるいは、よからぬことをしでかします」

 

「むぅ……よくわからんが……とにかく世話になった、ウィンサ」

 

「はーい、どもどもー。あ、鍵お返ししますねー……ではでは、さよならですー」

 

 そのままウィンサは去る。

 

『……おい龍の小童(こわっぱ)、どういうことじゃ? 準備? いったい何の話じゃ』

 

「見ればわかる」

 

 クリーヴはそれだけ言って自室まで行き、扉を開けた。

 

 そこには、

 

『なんじゃこれ……?』

 

 椅子が二脚と机が一卓。あまり大きいものではなく、持ち運びし易い大きさだ。

 

 それらが殺風景な部屋に新たに加わっている。

 

 いや――それだけではない。

 

 机の上に酒と(さかな)と……それに、(てのひら)大の木桶が一つ。

 

 クリーヴが鼻の穴をひくひくと動かしながら、木桶の蓋を取った。

 

「これが "翻車魚(まんぼう)微睡(まどろみ)亭" の看板料理、スレネティ(ます)の精霊落としだ」

 

 結晶少女は思い出す。そういえば一昨日、ギャランであの翻車魚族の小料理屋に訪れた際、クリーヴは店主に何やらひそひそと話し掛けていた。

 

「今日ならギリギリ漬け込みが間に合うということでな。届けて貰ったのだ。その他は昼食の時に準備を頼んでおいた」

 

『ま、まさか今朝、ちょうどよいと言っておったのは――』

 

「む? 勿論このことだぞ。間にあって良かった。これで恩人を持て成し……そして、見送ることができる」

 

『おぬし……』

 

 不覚にも結晶少女は心中に温かいものを感じた。

 

 いや、本当は今に始まったことでない。

 

 この龍の少年と過ごした一週間。少女は幾度も彼の不器用な優しさに触れた。

 

 ただそれを "自分にはそんなものを受け取る資格がない" と思い、見て見ぬふりをしていただけである。

 

 けれど、どうやらそれも限界のようだ。

 

 何故ならばこの温かさこそ、結晶少女が暗い地下で悠久の時を過ごす中、求めたもの――。

 

『あり……がとう』

 

「ああ。ジョヴィエルのことがあるので、俺は途中で抜けるかもしれんが……せめてそれまで、お前との別れを惜しませてくれ」

 

『ああ……ああ、いいとも……』

 

「さあ、魂石から出てきたらどうだ」

 

『すまぬ……少し、少しだけ……待っとくれ』

 

「む? 何か問題でもあるのか?」

 

『そうではないわい……それくらい察しろ、阿呆(あほう)……』

 

「むぅ……お前は難しいことばかり言う……」

 

 少年と少女が互いに名残を惜しんでいた、その時である。

 

「なんだ……⁉」

 

 遠くから大きな音が聞こえてきた。クリーヴはこの(たぐい)の音に馴染がある。これは霊石砲のような火力に秀でたもので、何かを力任せに破壊した時に聞こえるそれだ。

 

 建物が壊れる音、人々が逃げ戸惑う声、叫び……そういうものに違いない。

 

『食堂の方からじゃったぞ……?』

 

「ああ、そうだな」

 

 クリーヴは少しだけ考え、赤い瞳で少女を見遣る。

 

「すまんが――」

 

『阿呆。んなのいちいち訊くな』

 

「っ、かたじけない」

 

 クリーヴは食堂に向け走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ