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幻蒼物語 ~ファンタズマブル~  作者: K. Soma
第一部 無限の断絶

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結晶少女 37

 ギャラン。獣人種を主とする国、ブレヴディルの王都だ。

 

 時を(さかのぼ)ること二五〇年、ユリア歴八七八年に三代目国王ギャラン・ブレヴディルが発した勅令により旧都から移転した来歴を持つ。

 

 グランレーファ学院からは乗合馬車で一刻半ほど。東には澄んだ水質で有名なリスティーヌ川が流れ、そこで取れた四季折々の新鮮(フレッシュ)な魚介類が日々市場を賑わせる。

 

 ギャランは四方が城壁で覆われた城郭都市であり、外から眺めると中心に(そび)え立つ王宮、大天守が一際目を引いた。複数連なった(まる)屋根の表面には、色彩豊かな陶器製の(タイル)でブレヴディル王家の家紋が描かれている。

 

 都市内には等間隔に背の高い風車が配置され、これらは皆、影孔(えいこう)を吹き流し蓄積を防ぐための装置、影孔整流(リリアニゼ)機だ。稼働は影孔が上空へ浮上する夜間のみのため、日中は停止している。

 

「……あーあ、まったくよ」

 

 ギャランを目指す一頭の馬の姿があった。河馬(かば)のように扁平で大きな顔、とろんと眠そうな目つき、大木のように図太いがその分短い首と四肢……豪力馬(ごうりきば)、うーである。広い背に大股開きで(またが)るのはスピット……いや、それだけではない。

 

 クリーヴもいた。

 

「せっかくの休日にどーして野郎と二人乗りしなきゃなんねーんだよ……」

 

「よいではないか。馬賃の節約になる」

 

「そりゃお前の都合だろーが。俺には関係ねえ」

 

「む……もしかして迷惑だったか?」

 

「……そうは言ってねーよ」

 

「そうか、安心したぞ」

 

「まったくお前ってヤツぁ……」

 

「む。どうした?」

 

「何でもねえやい!」

 

 今日は赤の月、第四週、第五日。世間一般では休日にあたる。二人が学院を()った時はまだ薄暗かったが、今は日が昇り雲一つない晴天だ。爽やかな春の風が心地いい。

 

 予定通り、クリーヴは王都を目指した。ギャランへ出るには学院の馬を借りる、ないしは乗合馬車を使う等の必要があるが、この茶兎(ちゃうさぎ)族の友人の都合がつく場合、こうして相乗りさせて貰うことが多い。

 

 スピットは毎度ブツブツ言いつつも、なんだかんだ了承するのが常だった。

 

「そいやさクリーヴ、知ってか? 来週から三年と四年は大規模演習でしばらくいねえんだとさ」

 

「そうなのか」

 

「そうなのだ……にしてもキッチイよな~、山だか森だか知んねーけど、人里離れた辺鄙(へんぴ)な場所で一週間もドンパチやれってんだもん。耐えらんねーよオレ」

 

 大規模演習とは、霊機兵科の上級生に課せられた特別な課題である。詳細は年度で異なるが、基本的には二軍に分かれ、偵察任務や陣地構築に始まり罠の設置・伏兵・奇襲・夜間作戦なんでもありの条件下、勝利条件の達成を競う。演習は最長一週間に渡って実施され、過去には王国軍との合同演習になったこともあった。

 

「ということは、教官殿たちも来週は大半が不在なのか?」

 

「だと思うぜ。確か去年もそれで自習が多かったろ? ……ちっ、あのオニクスの腐れ野郎もどっかに行ってくれりゃあいいんだがな」

 

「……そうはならんだろうな。早朝訓練が中止になる話は出ていない。おそらく学院に残られるのだろう」

 

「ケェ~っ、まったくヤなもんだぜ………………ん、おい着いたぞクリーヴ。検問済ますから降りろ」

 

 城門には衛兵が常駐している。都市に這入るには入都料の支払いに加え、彼らの検問を受けねばならない。検問は身分や違法品の持ち込みの確認に加え、長期間滞在の際は宿泊先の提示が求められる。

 

 スピットらはギャランでも一目置かれるグランレーファ総合霊術学院に籍を置く身なので、学生証の携帯さえ抜かりなければ比較的円滑(スムース)に入都できた。

 

「ん~、うーちゃん! 今日もお顔がかわいいうーちゃん! ここで待っててね! お兄ちゃん、明日までにはちゃ~んと戻ってくるからね~!」

 

 検問所を通過した先には馬宿がある。スピットはそこにうーを預けると、例によって例の如く、乳白色の毛に深々と顔を沈め頬ずりした。うーもそれに応え、いつも通り「ぶるひ!」「ぶるひっ!」「ぶるひひひひひ~ん!」と珍妙な(いなな)きを上げると思いきや……そうでもない。

 

 なんかこう、ムカつくぐらいキリッとした顔をし、あらぬ方を見てる。

 

 あらぬ方。ちょうど向かい合わせに位置する馬房(ばぼう)だ。妙に睫毛が長くて色っぽい牝馬(ひんば)がクネクネと身を(よじ)らせている。

 

 ……飼い主に似た、というとこか。

 

 ちなみに今日のうーはあのゴテゴテとした覆面(マスク)をつけていない。あれは "忘れられた森" のような影孔処分地域、すなわち極めて影孔濃度が高い場所へ(おもむ)く際の装備だ。影孔は人を除く全ての生物を汚染し魔物に変える。その変異は呼吸を介し発現するため、そういった装備で影孔を体内に取り込ませぬ処置が必要なのだ。

 

「じゃあオレは行くぜ、クリーヴ」

 

「また逢引か?」

 

「んなこと言わせんなよ野暮天め……ああ、それといつものように帰りは保障できねえ。夕方、青二つの時間で中央広場にオレの姿がなけりゃそういうこった」

 

 今日と明日は休日である。スピットの言う "帰りは保障できない" とは "自分は事と次第よっては王都に泊まるからその時は自分で帰りの足を見つけろ" の意味だ。なお、青二つというのはファンタズマブル固有の時法で、概ね夕食前後の時間帯を指す。

 

「うむ、わかった。ではな」

 

「おう」

 

 二人はそれぞれ別の方角へ足を運んだ。

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