結晶少女 34
ファンタズマブルの夜空に細い環を持った赤い月が昇る。月はこの蒼の大地で季節を知るのに最も直接的な手段の一つだ。
春には赤く、夏は黄色から緑に、秋に青く、冬では黒を経て白へと変わる。
今宵は雲一つない満月。血が滴らんばかりの赤い月だ。
その者は闇の中、爛々とした瞳で月を見る。
面白いものが見れるかと期待した。
だが、駄目だった。
そう簡単には尻尾を出さないらしい。
それでもあの龍人種の実力をこうして己の目で見て取れたのは収穫だ。
相当な手練れである。話に聞く限りでは自分同様、スレネティ戦争に従軍していたとか。
ならば納得である。あれには人を殺すことに躊躇いのない者、そこに敵の排除以上の意味を見出さぬ者特有の冷たさと柔らかさがある。
……ああ、スレネティ戦争。あれは実に良い時間だった。
こんな身体になった今だからこそ、一層強くそう思う。
やはり自分は人なのだ。人だからこそ……人で遊ぶのが何より楽しい、と。
あの夢のような時間をまた味わいたい。
ヤツならば味わせてくれるだろうか。自分をこんな身体にしたヤツならば。
……そうだ。きっとそうに違いない。
そのためにも……あの異形の少女、蒼の少女は必ず、己の手に収める。
あれほど探し求めていたヤツではなく、自分が手にいれるのだ。
それはきっと……とてもいいことだ。
さて、そのために――どう手を打つか。
闇の中、目を閉じて黙考する。それはまるで、その者が影と化したかのようだった。




