結晶少女 25
いやはや何とも目に煩い光景だった。
霊機兵の尺度で見ても広く、端から端まで移動するには時間を要するだろう。その中にあれもこれもと造られた環境は多岐に渡り、ある場所には鬱蒼と生い茂る木々、少し離れて水辺と岩場、奥の方には異国含む複数の建築様式で区分けされた模擬市街地が点在していた。
クリーヴが<白鋼>の魔物の死肉を使役し向かうは、中央付近に位置する見晴らしの良い平地。
そこで模擬戦を行え、というのがオニクスの指示だった。
ここは学院敷地南東の外れ、霊機兵科の演習場である。学院と演習場の境界に沿って城壁と見紛う防護壁が立ち、日頃の演習ではその裏が霊機兵や関係者の待機場所だった。
防護壁には学院側から階段が敷設され、壁上の通路に出れる。そして今、石畳の通路には、結構な数の人々がひしめき合っていた。
本日この時間に演習を行うはずだった霊機兵科の学生は勿論として、明らかにそれ以外の者が散見する。何しろ娯楽に乏しい環境だ。昼休みに急遽決定したこの模擬戦、しかも実弾を使うらしいという噂はあっという間に駆け巡り、物見高い人々の関心を掴んで離さなかったのである。中には給仕服や作業服を着たままで駆け付けた少年少女も多数いた。
人々のざわめきに指向性が生じる。
視線が飛びゆく先には……金色の巨人。<白鋼>と比しても頭一つ二つ上回るがっしりとした大きな体躯、そこに重厚な装甲が取り付けられ、手には巨体に見合う戦鎚。
アンシェクが使役する機体――金剛である。そばにジョヴィエルもいた。
「アーシェ……すまん」
「いいんだナ、ジョヴィ。これで……いいんだナ」
どこか悲壮感漂うやり取り。二人が交わす言葉はそれで尽きた。
アンシェクは防護壁の横を通り、<金剛>の巨体をクリーヴが待つ中央へ向ける。ジョヴィエルは唇を噛み、階段を駆け上って見晴らしの良い場所に移った。
「……んだよジョヴィ、しけた面して」
スピットである。使役士どうし通ずるところがあるのか、二人が戦いの行く末を見守るに最適と判断した地点は同じだった。
「……貴様か」
普段なら "ジョヴィ" 呼びだけで激昂するのに今の彼ときたら……。まるで青菜に塩である。
(ったく、んなんじゃこっちの調子まで狂うっつーの)
スピットは栗色の毛を落ち着きなく梳いた。
そして思う。
……無理もない。ジョヴィエルもアンシェクも優秀だ。それは認めざるを得ない。
だからこそ――彼我の差を理解しているのだ。
自分が感じたように、クリーヴとアンシェクの間には今のところ埋められない決定的差異がある。
彼らもまたそう思い、そしてそのような状況下で実弾を使った戦闘が何を引き起こすか、それを危惧しているに違いないのだ。
「……あのよ」
スピットは今だけは日頃の確執も忘れ、誠意をもって話した。
「クリーヴも言ってたよ。すぐに終わらせるって。勿論、深刻な怪我も負わせず賢明に、だ」
「スピット……お前は」
「だってそうだろ、なあ。オニクスのクソ野郎は殺し合いをしろ、なんていったけどよ。そんなの――」
「お前は何を勘違いしてるのだ?」
「へ?」
「僕が心配しているのはただ一つ。僕の友人がお前の友人を殺すことになってしまわないか。ただそれだけだ」




