結晶少女 22
薄暗い部屋だった。昼間にも拘らず板のように分厚い黒の窓掛けがピタリと閉じられ、室内は常人であれば油灯を要する暗晦である。
そんな仄暗い闇の中、その者は楽しそうに……いや愛おしそうにすらして、机の上に置かれた "何か" を指先で弄んでいた。
砕けた硝子の破片によく似たそれは赤と橙が溶けあうように絡まり……先日、肉人形の残骸から回収した晶球の欠片と知れる。
ここはグランレーファ学院の教官一人一人に割り当てられた自室兼個人研究室。
その者は欠片を掌中に収め、ゆっくりと目を瞑り……額に当てた。
何度目になるか知れぬほど繰り返した行為。
今、その者の視界に映るは暗い室内でなく、肉人形の記憶、その残滓だ。
雑音が酷く、あまりに断片的だが……それでもなお、その映像は視る者を惹きつけてやまない。
結晶に封じられた異形の少女。肉人形に砕かれても、蒼き光の粒と化して霊機兵に異界めいた力をもたらした。
少女の力により、自分の作った肉人形は敗れたのだ。
――ありえない。
そんなこと、起こり得るはずがない。たかだが一霊機兵に討ち取られるなど。
自分も、そして自分の作った肉人形も、そういう存在なのだから。
だが事実は違った。それは起こった。ありえぬはずのことが起きた。
「 、 、 」
喉奥から、くぐもった嗤いが漏れる。これでも一応自制しているが……抑えきれない。
間違いない。ヤツが探し求めていたもの。それはあの少女だ。
そうとしか考えられない。でなければ "ありえぬこと" を起こせるはずがない。
人の世の理を超えられるのは、ヤツだけでなかった、ということだ。
「 ! ! !」
その者は今や、激情を隠そうともせず高らかに嗤っていた。最高の気分だった。
ヤツがあれほど探し求めていたもの。それを先んじて見つけ出した。
自分が主導権を握っている。
だが油断はできない……気取られぬよう、慎重に事を運ばねば。
あの霊機兵……<白鋼>、だったか。霊機兵科のクリーヴ・エインシェドラグが使役する機体。
あの龍人種だ。アイツが鍵を握っている。
……もっとだ。
もっと情報を探り、そして――最後にはすべてを己が手中に収める。
それがいい。
それはきっと……とてもいいことだ。
闇の中、いつまでもその者は嗤い続けた。




