結晶少女 18
スレネティ戦争。
ユリア歴一一一〇年から一一二六年、すなわち一昨年に掛けてまでの計一六年に渡り繰り広げられた戦争である。
発端はブレヴディル王国と虫人種の国ガディアノザ・セクリトゥリ――通称ガディア国との国境に位置するスレネティ高原の地下にて、新たな霊石の鉱脈が見つかり、その採掘権を巡っての些細なものだった。
だが開戦から年を跨がずしてブレヴディルの同盟国、パエスフォロア聖領が参戦し事態は泥沼化する。鳥人種を主とするパエスフォロア聖領は "ユリアの導き" を正教とする宗教国家であり、ブレヴディルの建国から現在に至るまで強い影響力を有する。他方、古から続く大国、ガディア国は、紀元前から一貫し "聖樹教" の厳格な遵守を自らに強いてきた歴史を持つ。
つまるところ資源争いから一転、局面は宗教戦争へと発展した。互いに根本的な主義・主張の違いで対立し、調停役は存在しない。どちらもこの戦いが聖戦と信じて疑わず、嬉々として血で血を洗い流す。
輪をかけて悪いことに、第二世代霊機兵が本格的に実戦投入されたのもこのスレネティ戦争だった。当初こそ一日の長を活かし攻勢に出ていたブレヴディル・パエスフォロア連合だが、半年も経たぬ間に機体鹵獲に端を発した技術盗用に苦しむ羽目となる。そこから先は鼬ごっこの様相を呈し、両軍は煌びやかな革新とはいかぬものの、着実に小規模な更新を重ね、第二世代霊機兵の完成度を高めた。
これまで存在し得なかった "霊石砲を自在に使用する霊機兵" の存在は、両陣営で日々刻々と戦術水準での運用刷新を促し、戦局は不出来な駒のように目まぐるしく揺れ続け、無数の命を吸った。
――最悪の戦争。
休戦協定に毛の生えた程度の条件で "戦勝国" となったブレヴディル王国すら、そう悔悟せざるを得ない戦争……それがスレネティ戦争である。
クリーヴ・エインシェドラグは現地志願兵として、その戦列に加わった過去を持つ。